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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『武満徹の電子音楽』 川崎弘二さん

    創作の現場を克明に追う

    • 川崎弘二さん
      川崎弘二さん

     大阪の万博記念公園のパビリオン(旧鉄鋼館)に今も残る「スペース・シアター」。無数のスピーカーから武満徹の曲「クロッシング」が流れている。作曲家は1970年の万博当時、この未来的なホールのために最新の技術を援用して斬新な音響を構築した。

     「20世紀はテクノロジーの世紀で音楽も例外ではない。武満の前衛的な創作活動を振り返る上で、ここは歴史的な場所なんです」

     戦後日本を代表する作曲家の生涯を電子テクノロジーの側面から追ったこの本は、1000ページを超える力作だ。その情報量の多さと詳しさに圧倒される。「当時の雑誌を徹底的に調べ、存命する関係者を突き止めて取材した。執筆にかけたのは雑誌連載期間を含め6年ほどですが、資料集めには20年かけています」

     これほどの熱意とエネルギーを電子音楽に注ぐ著者は、音楽学の研究者ではない。数年前まで関西の歯科大で教えていた歯科医である。「中学生の頃から電子音楽にひかれ、レコードを集め始めた。プライベートに使える時間とお金は、ほぼすべてこの分野に投じてきた」。2006年に出した大部の『日本の電子音楽』で注目され、余人の追随を許さない地位を築いた。

     電子音楽の制作は作曲家と機器を操るエンジニアの共同作業で成り立っていた。「この本は膨大な資料集のようなもの。読んで面白いかと言われると……」と苦笑するが、制作現場の息吹をこれほど多面的に記した資料はない。

     たった10秒の音を作るのに数日かけていた当時に比べ、今はパソコンを使って1人で作業できる。「その分、作曲は自己完結的で閉ざされたものになっているかもしれません」。在りし日の創作の秘密に迫る本書は、多くのことを気付かせてくれる。(アルテスパブリッシング、1万2000円)

     松本良一

    2018年09月04日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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