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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『定年ラジオ』 上柳昌彦さん

    居場所を見つけて

    • 上柳昌彦さん
      上柳昌彦さん

     在京ラジオ局、ニッポン放送の看板アナウンサーだったが、1年前に定年に。系列会社の契約社員となり、変わらず同局で朝一番の帯番組「上柳昌彦 あさぼらけ」を担当している。「深夜1時半に起きて2時45分に局に入る生活。まだ朝刊も届いていません」と頭をかく。

     同局の愛聴者なら、軽やかな美声で人間味にあふれたトークを聞かせる「うえちゃん」を知らない人はいないだろう。局アナ生活36年の間に、未明から朝、午後、夕方、深夜までほぼ全時間帯のパーソナリティーを経験した。「ラジオは『10年がワンクール』と言われるような世界。それだけ番組を終わらせてきたということで、後輩には『俺みたいになれ』とは言えない」と謙遜する。

     定年と前立腺がんの判明が同時期に重なり、人生を見つめ直す機会だと感じたのが執筆のきっかけだった。入院中、病床で構成を練り、ビートたけしの「フライデー襲撃事件」直後に生放送の代打を急きょ任されたことや、タモリやテリー伊藤と共演した人気番組のこと、同局の買収騒動、東日本大震災――と、悲喜こもごものラジオ人生を思い出すままにつづった。

     執筆を依頼した編集者も、表紙の絵を描いてくれたのも長年のリスナー。宣伝オビは番組で共演する笑福亭鶴瓶が引き受け、ラジオスター・伊集院光がライバル局の番組で本を紹介してくれた。出版直後から「本屋で並んでいるのを見た」といった報告メールもリスナーから続々と寄せられ、ラジオを愛する人々の温かみを肌で感じている。

     定年後、居場所を見失ってしまった人たちに、ぜひ読んでほしいという。「僕にはラジオという居場所があった。これからもリスナーを裏切らない商品を出し続けたい」(三才ブックス、1300円)

     森重達裕

    2018年10月30日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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