『イエズス会士と普遍の帝国』 新居洋子著

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(10日、東京都千代田区で)=栗原怜里撮影 イエズス会士と普遍の帝国
(10日、東京都千代田区で)=栗原怜里撮影 イエズス会士と普遍の帝国

清帝国と西洋の出会い

 この本の帯には「思想のグローバルヒストリー」とあるが、歴史学の専門家でない読者に対して、これは誤解を招きやすい。テクノロジーや経済活動ならともかく、地域の文化や慣習に強く根ざした「思想」の場合、地球規模で完璧なコミュニケーションの回路が成立し、全世界が一斉に変わることはありえない。それは、いわゆるグローバル化がどんなに進んでも、変わらない条件だろう。

 もちろん、遠く離れた地域の異質な文化どうしの対話が不可能だというわけではない。むしろ時にはそれが活発に起きるところに、思想史のおもしろさがある。この本が扱う、十八世紀後半に清帝国に滞在したイエズス会士のとりくみは、その重要な例だろう。漢語・満洲まんしゅう語・フランス語・ラテン語と、東西の多言語の史料を駆使して、その営みを明らかにした研究である。

 主人公はフランス出身の宣教師、アミオ。清の皇帝に仕えながら、西洋に対して極東の帝国の文化と歴史に関する情報を送り続けた。旧約聖書の神の信仰が古代の東アジアにも伝わり、儒学における「上帝」としての天の崇拝として残っているという、現在から見れば妄説の要素も、その議論には含まれている。しかし、「科学」的な音楽理論が古代から存在したことや、清帝国の公定言語の合理性や、官僚の合議による政治決定のしくみを公平に評価し、西洋の知的な交流圏へと紹介した。

 世界大の普遍教会としてのカトリックの信仰と、地域と民族の区別をこえた「天」の普遍性を、正当性の根拠とする東の帝国との出会い。客観的に見れば異質なものどうしではあるが、アミオはみずからの文明の普遍性を信じ、それと共通するものを清帝国の伝統のなかに見いだそうとした。そうした普遍的なものを探求する姿勢は、異質な文化どうしが対立する状況において、ますます重要になるだろう。十八世紀の歴史はそのことを現代人に教えてくれる。

 ◇にい・ようこ=1979年東京生まれ。東京大東洋文化研究所国際学術交流室特任助教などを務める。

 名古屋大学出版会 6800円

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3695 0 書評 2018/01/22 05:26:00 2018/01/22 05:26:00 (10日、東京都千代田区で)=栗原怜里撮影 イエズス会士と普遍の帝国 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180115-OYT8I50016-1.jpg?type=thumbnail

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