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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

    『クルト・ヴァイル』 田代櫂著

    ワイマール文化を体現

     ドイツの作曲家クルト・ヴァイル(1900年~50年)といっても、音楽通ですら、ブレヒトとつくった「三文オペラ」や、米国に亡命後の「セプテンバー・ソング」を記憶する程度かも知れない。本書は、膨大な数に及ぶ全作品に触れ、足跡を丹念にたどることで、ヴァイルこそが、第一次世界大戦後のワイマール文化を知る意味で、もっとも重要で刺激的な人物なのだと理解させてくれる労作だ。

     ベルリンの「黄金の二〇年代」は、1933年にヒトラーが政権を握るまで続いた。人口400万人の都市に3つの歌劇場と49の劇場、75のキャバレーがあった。映画館363、飲食店1万6000、バーやダンスホール220を数えた光の海は、才能の坩堝るつぼでもあった。指揮者のフルトヴェングラー、ワルター、クレンペラー、映画界のムルナウ、ラング、ルビッチ、ワイルダー、物理学のアインシュタイン、作家のカフカ、ナボコフ、演劇のラインハルト等々…。

     その時代のベルリンでヴァイルは、最も若い作曲家として脚光を浴びた異能の人である。本書の副題の「生真面目なカメレオン」は、無調から甘いバラードまで、その作風のめまぐるしい変化と、生真面目に作曲に没頭し続けた生き方にある。

     「狂乱」といった形容がされるワイマール文化を背景に、さまざまなコラボレーションがなされ、実験的な作品が、高名な指揮者によって、次々と初演することができたのである。

     シェーンベルクの無調音楽が衝撃を与えた時代は、次々と新しい音楽的な実験がなされ、しかもそれが批判とともに、音楽ファンの議論の対象となった、最後の輝きの時代だった。その時代を振り返ることは、聴衆を失ってしまった現代音楽と、過去の偉大な作品を繰り返し演奏するクラシック音楽のコンサートに分裂してしまった、第二次世界大戦後の西洋音楽の在り方を考え直す手がかりとなるのかもしれない。

     ◇たしろ・かい=1947~2017年。クラシック・ギタリスト、著述家。著書に『アルバン・ベルク 地獄のアリア』。

     春秋社 3500円

    2018年02月05日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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