文字サイズ
    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

    『藤原氏 権力中枢の一族』 倉本一宏著

    日本史を動かした主役

     「藤原氏こそ、日本の歴史を動かしてきた主役である」という力強い一文から本書は始められる。そして、それはけっして誇張ではない。藤原氏は朝廷の要職の大部分を占めたのみならず、皇室や将軍家・大名家と縁を結び、近代以降も重要な政治家や文化人を輩出してきた。私のような日本史研究にたずさわる者にとっては、藤原氏なしでは夜も日もあけないくらいだが、それだけに「藤原氏」という簡潔にして壮大なタイトルを掲げ、同氏の全貌ぜんぼうを語ろうとする本書の試みは実に果敢である。

     だが新書という限られた器の中で全時代を網羅するのは現実的ではない。本書がおもな対象とするのは、藤原氏の祖となった7世紀の中臣鎌足なかとみのかまたりを起点に、政変相次ぐ奈良朝・摂関政治の栄華を経て、13世紀半ばの五摂家分立にいたる道のりである。この間に藤原氏は、中臣氏から独立した氏族として確立し、天皇家に接近してミウチ関係を結び、摂政・関白の地位を独占して、朝廷政治を主導する体制を作り上げた。天皇を首班とする公家政権に限っていえば、大きな変革が遂げられ、前近代を通じて機能する要素のほとんどが出そろう期間にあたっているので、著者の設定は非常に有効と思われる。

     権力の拡大は、一族の規模の拡大に直結している。藤原氏は自氏の利益にかなうように権力の構造を更新し、世代を重ねるごとに多くの支流を生み、社会のすべての階層に流れをいきわたらせていった。

     なにぶん複雑な歴史過程と、膨大な数の家や人物をあつかっているので、いささか難物と感じられるところもある。だが、日本の全時代・全領域にコミットした一族を俯瞰ふかんする機会を与えてくれるという点では、得難い成果であろう。本書を糸口として、ぜひ個々の人物や事件への興味も深めていっていただきたい。

     家族が先細りする現代にあって、むことなく展開し、連綿と続く血縁の力を見ることは、まぶしいような、面はゆいような体験である。

     ◇くらもと・かずひろ=1958年生まれ。国際日本文化研究センター教授。著書に『蘇我氏』『戦争の日本古代史』。

     中公新書 900円

    2018年02月05日 05時22分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク