評・加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

『天文の世界史』 廣瀬匠著

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天文の世界史
天文の世界史

美しく多様な知を案内

 「星空案内人」というロマンチックな名称の認定資格がある。豊かな知識をもとに天文の楽しみを一般人に教えてくれる、いわば「星のソムリエ」を指す。古代から現代まで、人類は宇宙をどうとらえてきたのか。天文学史の研究者で星空案内人でもある著者は、「ですます」調のやさしい文体で縦横無尽に語る。

 天文学の歴史は私たちの日常と結びついている。「曜日」もそうだ。太陽と月、五つの惑星を神として重視する「七曜」の概念は、古代メソポタミアの占星術が起源で、エジプトやギリシアの学問と結びつき、東西に広まった。東へはインド、中国を経て日本へと伝わり、仏教系占星術「宿曜すくよう道」になった。紫式部の『源氏物語』や藤原道長の日記にも宿曜道が出てくる。一方、西に伝わった七曜は西洋の曜日になった。明治時代の日本で西洋文明の暦を取り入れたとき、1000年前の宿曜道が再発見され、すんなりと定着した。

 本書は西洋だけでなく、中東、インド、中国、アフリカ、アメリカ大陸、太平洋の島々など、世界各地の人類にも目を配りつつ、太陽や月、惑星、彗星すいせい、宇宙論など、テーマごとに天文学を幅広く語る。古代中国の蓋天がいてん説や日本のキトラ古墳など歴史的文物が語られ、ダークマターや「すばる望遠鏡」など現代の科学的なトピックも語られる。常識の誤りも正される。インドの天文学者は大昔から地球は球体だと知っていた。しかし日本では「象・亀・蛇が丸い大地を支える古代インドの宇宙観」という間違ったイメージ図が定着し、今に至っている。

 世界各地の天文学はそれぞれユニークで、人類の文化は多様性に富んでいた。人類の知的営為は、近代以前から相互に結びつき、天空の星座のように美しくつながってきた。今の私たちも、未来も、そんなわくわくする多様性の延長上にある。天文と世界史の機微をやさしく説明する著者の名人芸は、まさに「星のソムリエ」である。

 ◇ひろせ・しょう=1981年生まれ。天文学史家。専門は古代・中世のインドにおける数理天文学の文献学的研究。

 インターナショナル新書 760円

無断転載禁止
6230 0 書評 2018/02/12 05:22:00 2018/02/12 05:22:00 天文の世界史 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180205-OYT8I50031-1.jpg?type=thumbnail

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