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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

    『歌う鳥のキモチ』 石塚徹著

    耳すませ振る舞い観察

     小鳥たちのふるまいは、その歌声から聞き取ることができる。

     本書の著者は、雌の眼前で恋の曲を切々と歌うある雄の行動を見張っていた。その雌とはすでにカップルが成立済みで、あとはひなが育つのを待つばかり。だからこれは愛をつなぎ止める歌なのだろう。ところがそう思っているとその雄は、恋の歌を歌い終えるなり、離れた森へとひとっ飛び。こんどはそこで、恋人大募集の歌を朗々と歌い始めたという。驚きである。

     著者は小鳥の研究で学位取得後、いったん高校教師になったという。しかし歌のレパートリーを聞き分ければ鳥の個体識別ができることに気づき、そこから分かることの面白さにとりことなった結果、ついに転職。今も日々、小鳥たちを追いかけている。それだけに説明は平易で丁寧。自身で描いたマンガイラストも笑いを誘う。

     この鳥のさえずり、ものの本やテレビ番組などでは、種族の維持のためと説明されることがある。しかしこれは正しくない。生き物は「種族」の維持など全く意識していないからだ。著者はこの手の目的論を慎重に排し、鳥自身の「キモチ」からそれを読み解いていく。

     その方法は地道なものだ。小鳥たちの歌声を録音し、分析・分類し、一羽ごとに聞き分ける。その行動を見守るなか、冒頭に紹介したように観察対象が突然、隣の森へと飛び立ってしまえば、峠に止めておいた自転車を必死にこいで、急ぎそちらへ向かう。しかも朝から晩までつきっきりだ。本人は夏休みの自由研究のような「自由研究」を続けていると自称するが、いや、趣味程度ではできないプロの仕事である。

     そうして読み解いてみると、興奮のあまり思わず場違いな歌を歌ってしまうケースも少なくないらしい。このあたりの解説も、実に納得がいく。著者にはこれら研究の成果を、今後も世界に発信していって欲しいものだ。著者を応援もしたくなる本である。

     ◇いしづか・とおる=1964年神奈川県生まれ。専門は動物社会学・行動生態学。著書に『昆虫少年ヨヒ』など。

     山と渓谷社 1400円

    2018年02月12日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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