『極夜行』 角幡唯介著

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極夜行(19日、東京都千代田区で)=三浦邦彦撮影
極夜行(19日、東京都千代田区で)=三浦邦彦撮影

酷寒の暗闇で見たもの

 冬の日照時間は緯度が高くなるほど短くなる。自転軸が傾いた状態で、地球が太陽の周りを公転しているためだ。北緯66度33分では、冬至にまったく太陽が昇らない。さらに高緯度では南中時に空が明るくなることすらない。それが極夜である。

 まったく太陽の昇らない極夜の北極圏を旅したら何を見るのか。それが探検家でありノンフィクションライターの著者が、人生の集大成として選んだ探検だった。

 眠りから覚めても真っ暗闇。気温はマイナス30度前後。ヘッドランプを頼りに出発の用意をして、月明かりの下、真っ暗な氷原にソリを引く。相棒は1匹の犬。暗さ、寒さ、孤独と格闘する日々がいつ終わるともなくつづいていく。

 旅の前半からすさまじいブリザードに遭い、重要なナビゲーション装置を風にさらわれる。最も近い人間の住居地シオラパルクに戻るには、複雑な地形を通過しなくてはならない。ルートを見つけるためにはある程度の日照が戻る春を待つ必要がある。ところが、春までの食料を置いておいた保管地がシロクマに荒らされていた。

 食料になる極北の動物を狩るために、さらなる北を目指すが、暗闇で狩猟はままならない。

 <探検とはシステムの外側の領域に飛びだし、未知なる混沌こんとんの中を旅する行為>と著者は定義する。日照がまったく得られず、視界がほとんどない極寒の地では、月と星と氷と風、そして犬と装備と自分が、微妙に絡み合って旅人の命運を左右する。帰還のための食料が不足し、追いつめられていく著者は、同時に原始環境のすべてを利用して、自分の力でなんとか命を維持する究極の自由なる時間を体験していく。

 完全に人間界から隔絶された真っ暗闇の極夜に、自らを放り込んでたどり着いた著者の深い洞察は、行為と思索という確かな両輪に支えられた、科学であり、芸術であり、そして最先端の探検である。

 ◇かくはた・ゆうすけ=1976年北海道生まれ。『空白の五マイル』で大宅壮一ノンフィクション賞など。

 文芸春秋 1750円

無断転載禁止
9618 0 書評 2018/03/05 05:28:00 2018/03/05 05:28:00 極夜行(19日、東京都千代田区で)=三浦邦彦撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180227-OYT8I50041-1.jpg?type=thumbnail

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