評・宮部みゆき(作家)

『それまでの明日』 原 りょう著

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

書評『それまでの明日』(27日、読売新聞東京本社で)=萩本朋子撮影
書評『それまでの明日』(27日、読売新聞東京本社で)=萩本朋子撮影

リアルな「詩情」の魅力

 前作『愚か者死すべし』より十四年。探偵・沢崎が帰ってきた。本書が作者のデビュー三十周年記念作品でもあることを踏まえると、作中の沢崎が五十代になっていることをしみじみとみしめてしまう(そしてこの感慨には、きっちりストーリーと噛み合う意味がある)。

『不意撃ち』 辻原登著

 前作では開巻早々に沢崎が狙撃事件に遭遇してびっくりしたけれど、今回はシリーズの常の形に戻り、物語は静謐せいひつにスタートする。依頼人は、西新宿の古ぼけた雑居ビルのなかにある沢崎の事務所には無縁の「まぎれもない紳士」で、たいていのことは探偵などに頼らなくても自力で解決できそうな雰囲気の会社員だった。依頼の内容は彼が勤める金融会社からの融資が決まっている料亭の女将おかみの身辺調査。ところが、沢崎が調査に取りかかると、この女将は既に死亡していることが判明する。さらに依頼人自身も行方不明になってしまって――

 今作でも、「沢崎のいる東京」に登場してくる人物たちの造形は豊かで確かだ。謎の中心である依頼人はもちろん、金融会社に居合わせた(だけの)派手な身なりの女性や、そこである騒動を起こす犯人の一人、巡り合わせで沢崎を手伝うようになる外見も中身もハンサムな青年、こんなところで寝てないでよぉというホームレス。みんなリアルであると同時に、現実にはない詩情を身にまとっている。この「詩情」こそが沢崎シリーズの魅力で、それを醸し出しているのが文章の力だ。硬質でありながら無機質ではなく、ウィットに富んだ比喩にあふれつつも機能的で無駄がない。私はこの文章を読みたくて沢崎シリーズを待っているのだとあらためて痛感した。シリーズのファンにはお馴染なじみの新宿署の錦織警部も健在。あいかわらず沢崎と嫌味の言い合いをしているし、ぱかぱか煙草たばこを吸っている。私がいちばん好きな清和会のヤクザ・相良が意外な様子で登場し、彼の過去の一端がちらりと明かされるのもうれしい。

 ◇はら・りょう=1946年生まれ。88年『そして夜は甦る』でデビュー。89年『私が殺した少女』で直木賞受賞。

 早川書房 1800円

スクラップは会員限定です

使い方
「エンタメ・文化」の最新記事一覧
10944 0 書評 2018/03/12 05:27:00 2018/03/12 05:27:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180305-OYT8I50025-1.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)