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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・奈良岡聰智(政治史学者・京都大教授)

    『立憲君主制の現在 日本人は「象徴天皇」を維持できるか』 君塚直隆著

    成熟した民主主義へ

     「君臨すれども統治せず」。立憲君主制下の君主の行動原理として、有名な言葉である。立憲君主は統治に関与しない「飾り物」だと誤解されがちだが、そうではない。例えば英国の現国王エリザベス二世は、政治に関して該博な知識とバランス感覚を持っており、王室外交などにおいて重要な役割を果たしている。ベルギーやデンマークなど多党制の国では、国王はいまだに首相決定にあたって強い影響力を持っている。立憲君主制とは、君主の威厳や統治機構間の絶妙なバランスの上に成り立つ、実に奥深い政治制度なのだ。本書は、世界各国の立憲君主制の由来と特質を分かりやすく解き明かしている。

     革命や戦争によって、多くの国で君主制が廃止されてきた。しかし、議会政治や民主主義に適応することで、立憲君主制という政治形態が発展し、今日に至るまで存続している。著者は、「君主制か共和制か」と「専制主義か民主主義か」という問題は必ずしも合致せず、むしろ君主制の国に成熟した民主主義の運営を行っている例が少なくないと指摘している。ポピュリズムが世界を席捲せっけんする現在、傾聴すべき見方である。

     近年特に注目されるのは、立憲君主国が、王位継承や譲位に関するルールを積極的に変えてきたことである。君主の「生前退位」は、ベネルクス三国では既に慣例化している。王位継承資格に関しては、男子のみの継承法を維持しているリヒテンシュタイン、女子も王位にけるが男子を優先しているスペインを除いて、全ての欧州の君主国で、男女を問わず第一子の継承が優先される「絶対的長子相続制」が導入されている。「男女同権」の波はアジアの君主国にも及びつつあり、既にタイでは女性への王位継承も可能である。

     明治以降初となる天皇の「生前退位」の表明、男子皇族の激減など、現在日本の象徴天皇制は大きな岐路に立っている。その行く末を見定めるため、世界の立憲君主制の動向から学ぶべきことは多い。

     ◇きみづか・なおたか=1967年生まれ。関東学院大教授。専攻はイギリス政治外交史。著書に『ジョージ五世』。

     新潮選書 1400円

    2018年04月02日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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