評・三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

『レーニン 権力と愛 上・下』 ヴィクター・セベスチェン著

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『レーニン』上・下巻
『レーニン』上・下巻

「革命」の教訓に学ぶ

 レーニンは狂信者だったが、権力追求にかけてはプラグマティストだった。こう説く著者は、ハンガリー難民出身の著名なジャーナリスト。ソ連の指導者、レーニンのプライベートな生活がうかがえる書簡を新たに読み込み、その人となりを捉える。これまで社会に出回ってきたレーニン像は、理想化されたものか、悪魔化するイメージだったが、本書はそのどちらでもない。

 著者が描いたのは、人間としてのレーニンである。恋する男であり、女性たちに守られ助けられて生きた人生。小貴族的な荘園生活を楽しむ抒情じょじょう性がありながら、狭隘きょうあいで、怒りを爆発させ、同志を追い詰め中傷し、一般の人々の飢えや犠牲を一顧だにしない冷血さという二面性。

 格差や専制を批判したレーニンが編み出したのは、不寛容で残酷な「解決策」だった。権力を掌握する過程では、怒号と暴力と中傷が良識的な他の社会主義者を遠ざけ、ボルシェビキ独裁を可能にした。それは、いま各国の政治や運動家の間で飛び交う怒号と非難の応酬を私に想起させ、背筋がひやっとする。醜い政治論争に愛想をつかすことは、より極端な人々が政治を独占することを許容することだからだ。

 レーニンに革命の確信が生まれるに至った社会背景は、いまグローバル・エリート批判や「1%による富の独占」批判が行われている雰囲気と似ていると著者はいみじくも指摘する。「数百万人の人びと、そして左右両派の危険なポピュリスト指導者たちの一部は、公平な社会の創設、自由と繁栄の維持、あるいは不平等と不正義の是正に、リベラル民主主義ははたして成功したのか、と疑っている」と。

 著者は、レーニンこそは「ポスト真実」の政治の生みの親であると位置づける。歴史の教訓は忘れられやすい。自由の価値を忘れず、血塗られた歴史を繰り返さないために、いま私たちが教訓を学びとるべき本である。三浦元博、横山司訳。

 ◇Victor Sebestyen=1956年、ブダペスト生まれ。ジャーナリスト。著書に『ハンガリー革命1956』など。

 白水社 各3800円

無断転載禁止
15356 0 書評 2018/04/09 05:24:00 2018/04/09 05:24:00 『レーニン』上・下巻 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180402-OYT8I50026-T.jpg?type=thumbnail

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