評・坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

『パチンコ産業史 周縁経済から巨大市場へ』 韓載香著

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『パチンコ産業史』(26日、社内で)=萩本朋子撮影
『パチンコ産業史』(26日、社内で)=萩本朋子撮影

業界の秩序形成に注目

 派手な外装に喧騒けんそうの店内、裏通りの交換所。パチンコにはどこか堅気でないイメージが付きまとう。だがパチンコは、多くの民間企業が熾烈しれつな競争を繰り広げる、市場規模が20兆円を超す巨大産業である。

 実際、パチンコ店は、駅前や大通りに居を構えているものも多い。これはアメリカのカジノが、ラスベガスのような特別な場所に立地を限定されているのとは対照的だ。パチンコは、生活空間に入り込むことに成功した、世界的にもまれな合法ギャンブルなのだ。本書はタブー視されがちなこの産業の歴史を丹念に明らかにする。

 著者がとくに注目するのは、パチンコ産業における、秩序の形成である。たとえば暴力団の介入をどう阻止するか。あるいは不当な競争をいかに除外するか。そうした無秩序的要素は、産業の存続を著しく危うくしていたのだ。互いに競争相手であるパチンコメーカーたちだが、産業の存続という共通の利益が、彼らを結び付ける。それらメーカーたちは日特連という業界団体を設立し、そこに適切な懲罰機能をもたせることで、産業に秩序を打ち立てた。その試行錯誤の様子は、無法状態にいる人々が集まり一つの国家を形成する「社会契約」のようでさえある。

 著者が扱うのはあくまでパチンコ産業だが、より広く、経済や経済学への示唆も多い。たとえば捕捉が難しく、脱税しやすい税制が、まともな企業を苦しめ、産業を滅ぼしうること。特許という知識の独占制度が、ときに産業の発展を促し、また阻害すること。市場の事象の膨大なサンプルが本書には詰められている。

 ビッグビジネスとなり、巨大資本が入り込んだ今日のパチンコ産業も、順風満帆というわけではない。スマホの課金ゲームというライバルもいるし、パチンコ依存症は社会問題視されつつある。だがパチンコ産業は荒波を常としてきた。いかなる時代状況をも乗り越えるこの産業のタフさを、本書は伝えてもいる。

 ◇はん・じぇひゃん=1971年、ソウル生まれ。北海道大准教授。著書に『「在日企業」の産業経済史』。

 名古屋大学出版会5400円

無断転載禁止
15365 0 書評 2018/04/09 05:22:00 2018/04/09 05:22:00 『パチンコ産業史』(26日、社内で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180403-OYT8I50015-T.jpg?type=thumbnail

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