『足利尊氏と足利直義 動乱のなかの権威確立』 山家浩樹著

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『足利尊氏と足利直義』(2日午後1時58分、本社で)=上甲鉄撮影
『足利尊氏と足利直義』(2日午後1時58分、本社で)=上甲鉄撮影

幕府草創期の内実に光

 「日本史リブレット」シリーズは、政治や社会・生活等、歴史上のさまざまなテーマをとりあげて専門家が論じるもので、すでに100冊近くを世に送り出している。用語についての懇切な注や、古文書等の豊富な画像を収録して、コンパクトな体裁ながら、本格的な内容をわかりやすく伝えてくれる。関連シリーズ「日本史リブレット 人」は2009年に刊行開始、特に人物に焦点を定め、その事績や役割を語ることを通じて、歴史の実像を浮かび上がらせる。本書は、室町幕府を草創した足利尊氏・直義ただよしの兄弟を主題とする一冊である。

 日本史の中で著名な兄弟は多いが、尊氏と直義は互いを思いやる心の深さと、政権を運営する共同統治のスタイルとで際立っている。それだけに複雑な情勢の中で対立に追い込まれ、観応の擾乱じょうらんと呼ばれる内乱を招いて、直義が不慮の死(毒殺という説もある)を遂げる結末は痛ましい。武家政権のあるべき姿を追求した政治姿勢とあいまって、「直義びいき」の研究者は少なくない。

 尊氏・直義の生涯は全国的な動乱とともにあり、彼らを取り上げる多くの書物でも、合戦の経緯や対立の構造が中心的な話題とされてきた。だが本書が注目するのは、動乱の狭間はざまで意外に平穏だった京都での政権運営の内実である。彼らは軍事面での優位を保つだけでなく、政権担当者としての正統性を示さねばならなかった。尊氏は源頼朝の後継者で、足利家は源氏の正嫡、兄弟は神仏の付託を受けて政権運営にあたっているのだと、広く社会に認知させたのである。重要な役割を果たしたのが、尊氏の祖父にあたる足利家時が、三代のうちに天下を取ることを八幡大菩薩ぼさつに祈願して切腹したという伝承だった。この件への直義の関与、室町幕府が安定期を迎えた段階で、関係文書と直義の記憶とをどのように扱ったかについての著者の考証は、権力の奥深さを示して秀逸である。

 ◇やんべ・こうき=1960年生まれ。東京大史料編纂所教授。専門は日本中世史で、室町時代研究で知られる。

 山川出版社 800円

16219 0 書評 2018/04/16 05:24:00 2018/04/16 05:24:00 『足利尊氏と足利直義』(2日午後1時58分、本社で)=上甲鉄撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180409-OYT8I50020-T.jpg?type=thumbnail

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