『ウマし』 伊藤比呂美著

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 詩人で東京育ちの著者は、米国の西海岸に長く暮らす。アメリカ人の夫を看取みとり、娘も巣立った今は作る人から食べる人に。それも好きな物を好きなだけ。で、どうなったか。ビールと甘い物と旅三昧の、確信犯的な子ども返りだ。

 めっぽう本能的で攻撃的な食にハマり、ウマさマズさをしがらみを忘れて語る、語る。

 べたべたに甘い米国のドーナツに獣めいた生命力を感じたり、英国人の好きなマーマイト(ビール酵母からできた黒っぽいパン用のペースト)を「江戸むらさき」そっくりの存在だと思ったり。五十余項、感情に任せているようでも、そこは現代日本を代表する詩人。本質的な比較文化論を必ずどこかに含んでいる。

 和食がユネスコの無形文化遺産になった時には、スシバーで無感情に成形されたそれを両面、しょうゆに浸しながらふと、感慨に襲われている。〈カリフォルニアに渡って来て幾星霜いくせいそう、日本語もご飯も忘れないが、後は忘れた。/あたしは誰だ。/あたしは、カリフォルニアロールである〉

 親友に枝元なほみ、平松洋子。最強。こんな破格の食べ物本があったでしょうか。

 中央公論新社 1400円

無断転載禁止
15997 0 書評 2018/04/16 05:20:00 2018/04/16 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180409-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

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