『ヒトごろし』 京極夏彦著

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『ヒトごろし』(2日午後2時、本社で)=上甲鉄撮影
『ヒトごろし』(2日午後2時、本社で)=上甲鉄撮影

幕末のシリアルキラー

 人を殺してみたかったとつぶやいて、まるで現代のシリアルキラー(連続殺人犯)である。幕末の激動の渦中で、その欲望は満たされる。男はやがて「ヒトごろし」が正当な行為として許されるサムライに成り上がるや、敵も味方も利用して強力な戦闘組織を作り上げ、幕末の動乱を駆け抜ける。これが京極夏彦描くところの新選組副長土方歳三である。

 京の動乱も戊辰ぼしんの戦いも蝦夷地えぞちの戦争も、土方が闘い抜いた原動力をその狂った欲望に措定しながら、そこは京極マジック、読み進めばそんな冷酷無残な「ヒトごろし」がしごくまっとうな男に見えてきて読者は始末に困る。この「ヒトごろし」はただ己の欲望に忠実だっただけで、その欲望を許す時代こそがむしろ狂っていたのではないか、それこそが新選組だったのではないか、と。

 狂気と欲望と歴史の虚実をないまぜに、京極流の幕末維新が語られる本書だが、むしろこの偏った奇想こそが人と歴史の真実に肉薄しているのではないかと思えば、ちょっとぎょっとしてどきりとウソ寒い。ひとり土方のみならず同時代の幕末維新の英雄たちもいわばみな「ヒトごろし」ではなかったか。チャプリンの『殺人狂時代』ではないけれど、ひとり殺せば犯罪者だが、百万人殺せば英雄だといったところか。もしかするとそんな「ヒトごろし」たちの存在こそが、その狂った欲望こそが時代を回天させたのかとまで思わせて、明治百五十年のいまを私たちは生きている。

 さらに「ヒトごろし」とは誰か、人を殺すとはいかなる行為なのか、個の欲望と時代が接触する瞬間になにが起こるのか、戦争とは革命とはなんなのかとさまざまに思いは錯綜さくそうしてみごと骨太に、司馬遼太郎『燃えよ剣』以来の土方イメージを塗り替える、イッキ読み必至のこれは傑作である。なにせ土方がそういうのだから間違いはない。

 ◇きょうごく・なつひこ=1963年、北海道生まれ。代表作に『嗤う伊右衛門』『覘き小平次』『後巷説百物語』。

 新潮社 2700円

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16129 0 書評 2018/04/16 05:26:00 2018/04/16 05:26:00 『ヒトごろし』(2日午後2時、本社で)=上甲鉄撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180409-OYT8I50022-T.jpg?type=thumbnail

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