『遺伝子 親密なる人類史(上・下)』 シッダールタ・ムカジー著

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15日付書評B面大評上『遺伝子 親密なる人類史』上下(7日、東京都千代田区で)=松本拓也撮影
15日付書評B面大評上『遺伝子 親密なる人類史』上下(7日、東京都千代田区で)=松本拓也撮影

「私たち」みんなの物語

 「遺伝子」というものについての伝記である。遺伝という概念の歴史のうねりを描き、その理解を進めた科学者たちの赤裸々な個性、癖、感情、そして長所も欠点も練り込んだ歴史ドラマだ。かのビル・ゲイツも年間ベストブックに選出したという。

『世俗化後のグローバル宗教事情 世界編I』 藤原聖子責任編集

 遺伝という仕組みを解明してきた人々の営みを臨場感たっぷりに描きだす点、分子遺伝学を専門の一つとする私にとっても、読んでいて随所に新鮮な驚きがある。反面、そこまでプライベートの事情・感情が正確に掘り出せるだろうか、と、若干の脚色を感じないわけでもない。とはいえ、編年体で統一された上巻を読む楽しみは、まさにそこにある。大学で分子遺伝学を習ったことのある若い読者にとっては、まさに最適な読み物となるだろう。

 そう書いてみて、しかし慌てて前言を撤回する。本書の帯によると原著は、ニューヨーク・タイムズのベストセラー一位、ワシントン・ポストの年間ベストブックに選ばれたという。そう、これは生物の学生の副読本などではなく、「私たち」みんなの物語なのだ。

 実際、下巻の後半で本書は編年体を離れ、近未来におけるヒトの遺伝子編集の是非へと、読者の視点を誘導する。その抑制のきいた語りは、冒頭から基調低音のように流れる、著者自身の家系に伝わる精神疾患の遺伝因子へのおそれと相まって、読者の安易な結論を引き留める。今にも始まろうとしている、あるいは既にどこかで始まってしまったヒトの遺伝子・ゲノムの人為改変。その是非について、深い理解に基づく議論を進めるためにも、ぜひ多くの人に読んでいただきたい本だ。

 なお訳はこなれて滑らかだが、メンデルの実験植物種名をエンドウマメ(正しくはエンドウ)としたり、傷害される、損傷されるといった居心地の良くない語を使ったりしているのはちょっと惜しい。仲野徹監修、田中文訳。

 ◇Siddhartha Mukherjee=医師、がん研究者。デビュー作『がん―4000年の歴史―』でピュリツァー賞。

 早川書房 各2500円

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17181 0 書評 2018/04/23 05:25:00 2018/04/23 05:25:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180416-OYT8I50015-T.jpg?type=thumbnail

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