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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・朝井リョウ(作家)

    『路上のX』 桐野夏生著

     両親の失踪、ネグレクト、継父による性的虐待、レイプ、望まない妊娠――境遇は違えど、十代にして頼る者も場所もなくなった真由、リオナ、ミト。三人の女子高生は、自分たちの力でこの世界を生き抜くために、汚しながらもその手を組むことを決める。

     かつて私が高校生だったころ、冒頭で述べたような不幸という不幸を並べた小説が流行した時代があったが、当時はそれを一種の娯楽として楽しめるほどその内容と自分との間に距離を感じられた。だが今作は、寄る辺ない若者の心の軌跡を容赦なくあぶり出す著者の筆力が、JKビジネスという言葉の裏にある大人の狡賢ずるがしこさや醜さ、その仕組みを成り立たせてしまっている社会の構造的、精神的欠陥を眼前に突き出してくれる。

     終盤、真由の両親の失踪理由が判明するが、結末に向けて抱いていた希望的観測とは程遠い真実に愕然がくぜんとさせられた。だが、少女以上に身勝手な大人の未成熟さは他人事でなく、読後、この小説は今このとき私たちの暮らす街に流れる時間であり、私たちを背景とした物語なのだということを思い知らされた。

     朝日新聞出版 1700円

    2018年05月28日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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