評・本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

『公共図書館の冒険』 柳与志夫、田村俊作編

無断転載禁止
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

「公共図書館の冒険」(18日、読売新聞東京本社で)=大石健登撮影
「公共図書館の冒険」(18日、読売新聞東京本社で)=大石健登撮影

連綿と続く知の営為

 図書館が人気の書籍を複数冊購入して貸し出すサービスに対して、出版社や人気作家から「図書館は無料貸本屋か」と、批判の声があがってから久しい。一方で、大多数の一般書や小部数しか製作されない学術書にとっては、図書館は重要な購入者であり、なによりモノとしての本とその内容を確実に次代に伝えてくれる、頼りになる存在である。

 また、学生等が自習のために閲覧席を占有することの可否も問題になっているようだ。だが図書館の落ち着いた空間が、勉学や集中と親和性が高いことを否定はできないだろう。

 あらためて考えてみると、図書館は実に多様で、しかもしばしば相互に矛盾する役割を求められているのだ。どの部分に注力するか、どのように解釈するかによって進むべき方向は違ってくる。本書は公共図書館史を見直し、これからの図書館の可能性について考えようとする「オルタナティブ図書館史研究会」の成果をまとめた論集である。

 明治政府は知識の普及によって日本の近代化を進めるために、図書館制度を導入した。都市部を中心に学術書や専門書を備える「参考図書館」が整備されるとともに、わかりやすく一般教養を伝える図書を中心とする「通俗図書館」が各地に設置される。今日では「通俗」という語はネガティブな響きを持つが、大正年間ごろまでは社会教育のことを通俗教育と呼んでいた。小学校付設や「巡回文庫」など、さまざまな「通俗図書館」があらわれ、書物や教育へのアクセスが必ずしも容易でない時代に、より広い層に啓蒙けいもう的な良書群を届けようとしたのである。本書ではこのほかにも、図書の選定・登録・装備などの実務的な手続きが論じられ、カウンターの向こうで連綿と続けられてきた営為を知ることができる。

 もの静かに見える図書館員の、熱い志が感じられる一冊。

 ◇やなぎ・よしお=1954年生まれ。東京大特任教授

 ◇たむら・しゅんさく=1949年生まれ。慶応大名誉教授。

 みすず書房 3500円

24009 0 書評 2018/06/04 05:25:00 2018/06/04 05:25:00 「公共図書館の冒険」(18日、読売新聞東京本社で)=大石健登撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180528-OYT8I50035-T.jpg?type=thumbnail

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ