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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

    『さよなら未来』 若林恵著

    視界をひらくものの見方

     かつて未来と呼ばれた時代を、私たちは生きているのか。ブラウン管ではなく、デジタルテレビやYouTubeで番組をるからだろうか。レコードやCDではなく、配信で音楽を聴くからだろうか。

     だがブラウン管だろうがデジタルだろうが、サッカーファンが観るのは、機器の画面ではなく、そこに映るサッカーの試合である。レコードだろうがアイポッドだろうが、聴くのは機器ではなく、流れる楽曲だ。

     それではサッカーや音楽は、未来的な変化や進化を遂げているのだろうか。未来について考えるなら、そのように問うべきではないのか。どんな画面で観ようとも、退屈な試合は退屈だし、レコードで聴こうがアイポッドで聴こうが、凡庸な音楽は凡庸なままなのだから。

     「IT革命」が世界を変えたという。本当だろうか。伝達のデバイスが変わったのは事実だ。だが伝えられる中身に、何かしら革命的な変化は起こったのか。外装に気を取られすぎたせいで、目につく「時代の変化」に戸惑ってはいやしないか。著者はこれを「いったいどれだけそそっかしいのだろう」「なにをそんなに焦っているのだろう」という。

     「未来」の見方を変えなければ、見るべき未来は見えてこない。そのように語る著者は、未来志向のテクノロジー雑誌『WIRED』日本版の元・編集長だ。本書に収められた文章の多くは、著者による同誌の巻頭言である。エッセイとも論考とも分類しがたいそれらの文章は、深い洞察に満ちながら、優しくてやわらかい。

     私はこの本を、毎晩、眠る前に一編ずつ読んでいる。宝箱をあけるようにページをめくると、夜の空気が穏やかに変わる。このような本が、この時代のこのタイミングで出版されることは、いかに高度な人工知能でも予測できないだろう。過去のデータからはとうてい予測できない、驚きと飛躍のなかに、著者は「未来」を見てとる。

     ◇わかばやし・けい=1971年生まれ。編集者、ライター。平凡社を経て独立。2018年には黒鳥社を設立した。

     岩波書店 2200円

    2018年06月04日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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