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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

    『ヒト、この奇妙な動物』 ジャン=フランソワ・ドルティエ著

    進化から本性に迫る

     私たち人類は、地球上に実に多様な文化を生み出してきた。住む場所が変われば習慣は変わるし、ほんのお隣の国でも考え方の違いに驚くことがある。多様な文化が、多様な暮らしを作っているように見える。

     だが一方で、こんな疑問も湧く。人間は無限に多様たりうるのだろうか。人間は、柔らかい粘土のように、いくらでも変形可能な柔軟性を持っているのだろうか。確かに人間の文化が相当程度多様だとしても、その多様性に一定の幅があるのだとしたら、文化そのものが何らかの人間本性に根ざして生まれているのに過ぎないのではないか――こうした疑問に答えるのが、本書で詳解される「進化心理学」なる学問分野である。

     たとえばこんな例があげられる。一九八〇年代、ニカラグアで初めての聾者ろうしゃのための教育施設が作られた。各地から聾の子供たちが集められると、彼らは数ヶ月のうちに自分たちで手話を発明してしまったという。このことは、言語の多様性以前に、そもそも人間には生得的に、言語を生み出す能力があるということを意味していないだろうか。特に観念を生み出す想像力は、他の動物にはないものだ。

     人間本性の存在を説明するために進化心理学がって立つのが、脳がモジュール構造を持つという事実だ。私たちの脳は、言語、記憶、視覚などの各機能に対応した領野りょうやを持ち、それぞれがある程度独立して情報処理している。つまり、脳はあらかじめ機能に対応したまとまり=モジュールを一そろい備えて生まれてくる。このモジュール構造は進化の過程で形成されたものであり、これを超えて自由に何かを生み出すことは、人間にはできない。

     もちろん、だからといって人間には自由がないというわけではないし、本性に根ざす傾向(たとえば男性の浮気癖)はすべて肯定すべきだ、ということにもなるまい。本性の力と文化の役割、その相互作用が重要だろう。鈴木光太郎訳。

     ◇Jean‐François Dortier=フランス語圏で読まれている月刊誌「人間科学」の編集・発行人。

     新曜社 4300円

    2018年07月02日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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