<速報> 藤井聡太七段、最年少・最速の公式戦100勝
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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

    『ジョン・ル・カレ伝 上・下』 アダム・シズマン著

    波乱万丈な作家の人生

     一九三一年生まれ現在八六歳のジョン・ル・カレ、新作が出るたびにいまも話題となって次々と映画化もされる、そんな押しも押されもせぬ英スパイ小説の老大家の評伝である。東西冷戦期の諜報ちょうほう戦を描いて圧巻の英国推理作家協会賞とアメリカ探偵作家クラブ賞と両賞受賞の『寒い国から帰ってきたスパイ』に三部作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『スクールボーイ閣下』『スマイリーと仲間たち』、パレスチナ紛争に材を採った『リトル・ドラマー・ガール』や、冷戦後の『ナイロビの蜂』『誰よりも狙われた男』などの映画化諸作品と、欧米はもとより世界各地を舞台に、諜報戦と歴史の暗部に関わり巻き込まれた人々のリアルでスリリングな物語を通じて我らが時代を見つめてきた作家である。

     かつてはインタビュー嫌いで知られていたル・カレだが、伝記作家の著者にさまざまな記録や資料を提供、取材に協力している。詐欺師同然の男の息子として生まれてオックスフォード大学を卒業、英諜報機関のスパイとなり、やがて作家へ。自ら紛争地帯に赴くなど旺盛な取材の末に書き上げた二五作はその多くがベストセラーリストをにぎわせて、映画人との交友から不倫や家庭の危機も赤裸々に、作品に勝るとも劣らない波瀾はらん万丈さである。

     昨年、回想録『地下道の鳩』と最新作『スパイたちの遺産』も邦訳された。前者は自らによる回想録だが、人生におけるトピックをシブいユーモアもまじえてつづったエッセー集の趣があり、後者はといえば冷戦下の作品の主役とした登場人物たちのいまを描いた傑作、自らの「冷戦」に落とし前を付けるかのような気迫にあふれていた。どうやら本書も含めて、ル・カレは作家人生の大団円を迎えているのかとまで思わせられるが、その作家魂にあらためて全作を読み返したくなって困る。未読のあなたがうらやましい。加賀山卓朗・鈴木和博訳。

     ◇Adam Sisman=伝記作家。『サミュエル・ジョンソン伝』の作者ボズウェルの伝記で全米批評家協会賞受賞。

     早川書房 各3000円

    2018年08月06日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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