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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

    『広い宇宙に地球人しか見当たらない75の理由』 スティーヴン・ウェッブ著

    人類による自分探し

     「みんなはどこにいる?」。米国の原爆開発の中心だった物理学者のエンリコ・フェルミは、戦後、宇宙に存在する知的生命体の数をざっくり推算した。「みんな」はとっくに地球に来ているはずだった。しかし、さしあたり「宇宙人」も「地球外文明」も見当たらない。

     この「フェルミのパラドックス」に対して、著者は75通りの回答案を紹介する。それらは「実は来ている(来ていた)」「存在するがまだ連絡を受けたことはない」「存在しない」の三つに大別できる。

     「みんなもう来ていて、政治家と称している」はジョークだが、われわれもエイリアンだ(最初の生命は宇宙から来たというパンスペルミア説)、地球は宇宙人の自然公園(動物園シナリオ)、人類が見ている宇宙は実は仮想現実(プラネタリウム仮説)、などはSF的な想像力を刺激し、ワクワクする。

     「みんな」は人類がまだ知らない電波以外の方法で送信している、とか、他の恒星系と送受信可能なレベルの文明の寿命は有限、などの回答案は、宇宙の大きさや、現代文明の行く末について考えさせる。「みんな」は存在せず人類は孤独だ、という回答案は胸にじわりとくる。生命はめったに誕生しないのかもしれない。地球でさえ、ヒトほど知性を発達させた生物は過去数十億年間いなかった。知性の発達は、自然でも必然でもないのだろうか。

     本書は2004年刊の『広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由』の増補改訂版である。近年の科学的発見やAI(人工知能)の進歩、地球環境の変化もふまえている。

     人類は、神や宇宙人にも心をもっていてほしい、と無意識のうちに願う。その意味で「みんな」の探索は、人類の自分探しの旅でもある。本書は、宇宙論からサブカルチャーまでさまざまなトピックを楽しみつつ、生命とは何か、人類はどこに行くのかを省察するサイエンス・エンターテインメントである。松浦俊輔訳。

     ◇Stephen Webb=英国の物理学者。著書に『現代物理学が描く突飛(とっぴ)な宇宙をめぐる11章』など。

     青土社 2800円

    2018年08月06日 05時24分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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