評・塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

『植物たちの救世主』 カルロス・マグダレナ著

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「植物たちの救世主」(27日、東京都千代田区で)=松本拓也撮影
「植物たちの救世主」(27日、東京都千代田区で)=松本拓也撮影

真のプラントハンター

 動物のハンターとプラントハンターは、言葉は似ているが、実は全く性格が違う。

 前者は、周知の動物のいのちを奪い、私欲を満たすもの。三年前、米国の歯科医師がアフリカでライオンをハンティングして国際的な非難を受けたのが、その典型例だ。後者は、世に知られぬ植物についてその性質を明らかにし、増やし、そして世に広めるもの。ただ消費するだけか、知識をもとめ、繁殖させようとするかで、大きく異なる。日本で最近話題の自称プラントハンターは、むしろ動物のハンターに近い。

 本書の著者は、それとは好対照の人物だ。世界最大にして最高の植物園・キューガーデンで、繁殖が困難な稀少きしょう植物の人工増殖に、長年取り組んでいる専門家である。スペインで生まれ、若くしてやむを得ず故国を離れ、英国でウエイターなどの下働きを重ねたらしい。あるきっかけからキューガーデンで研修を受け、幼いころからの園芸のセンスを買われて正スタッフとなった、という経歴もユニークだ。

 対象は難物ばかり。何十年も花だけ咲いて、種子のできない樹。種子をくと芽は出るものの、必ず衰弱して枯れてしまうスイレン。原産地にまだ多数生えているのならまだしも、著者が扱う植物は、いずれもわずかしか生き残っていない種類ばかり。現地には一本しかないという事例もざらである。何とかして繁殖させないと、絶滅は時間の問題なのだ。著者は原産地に出かけてその自生環境を見極め、それをヒントに、あるいは幼少時からの経験をかして、それまで例のない繁殖を次々と成功させていく。プラントハンターという言葉を著者は一度も使わないが、これこそ本当のプラントハンターだ。

 登場する花は魅力的な種類ばかり。現地調査の臨場感も楽しめるので、園芸趣味の方に広くお勧めできる。アジアでは馴染なじみのない種類が続出するため、植物に相当詳しい人でも、新鮮な驚きを味わえるだろう。三枝小夜子訳。

 ◇Carlos Magdalena=園芸家。国際スイレン・ウォーターガーデニング協会の役員。

 柏書房 2600円

35971 0 書評 2018/08/13 05:25:00 2018/08/13 05:25:00 「植物たちの救世主」(27日、東京都千代田区で)=松本拓也撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180806-OYT8I50045-T.jpg?type=thumbnail

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