評・森健(ジャーナリスト)

『ノモレ』 国分拓著

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「ノモレ」(13日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影
「ノモレ」(13日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影

先住民が問う文明と人

 読み始めてまず驚くのは、21世紀の現在こんな未開の人たちがまだいたのか、という事実。だが、読み進むうちに宿るのは、この人たちをどう遇するべきなのかという悩ましい問いだ。

 ペルー・アマゾンの奥地で弓矢を持ち、裸で暮らす先住民「イゾラド」。「昔話や伝説に過ぎない」と思われていた彼らが、突然文明化された人たちの前に現れだした。だが、数年の間に彼らは元先住民の集落を襲撃、殺人事件も起こす。ペルーの社会側はおそれ、対応に悩む。同国は先住民に関する特別法で彼らの存続を守るため「不可侵の存在とする」と宣言していた。そこで2015年6月、文化省は具体策を求め、元先住民の男性ロメウに調査を依頼する。

 ロメウにとって、イゾラドの調査は他人事ではない関心があった。イゾラドの一群は100年ほど前、ロメウが元いた先住民の集落を離れ、孤立して生きてきた「仲間、兄弟(ノモレ)」の可能性があったからだ。

 NHKのディレクターである著者は、このロメウを狂言回しにイゾラドとの交流を描いた。

 イゾラドの一群は集落側がバナナを渡すと、たびたびやってくるようになる。そうしたやりとりが数年続いたが、殺人や襲撃などの大きな事件が起きる。交流の過程で、イゾラドはロメウが元いた部族の言葉も少し理解し会話も実現する。ある家族はロメウに家族を紹介し、打ち解けもする。だが、思わぬ事態の発生でまたイゾラドは森の奥へと姿を消してしまう。

 本書を読んでいると、文明や教育がない原始的な暮らしがよいことなのか、放置すべきなのかを考えずにはいられない。

 では、イゾラド側はどう思っているのか。本当のところはわからないが、著者は一部の章で、彼らの思いをくみ取るかのように、雄大な大地や時間について彼らの心象描写も試みている。

 人間とは、文明とは――。そんな深い問いをしばらく胸で転がしておきたい読後感がある。

 ◇こくぶん・ひろむ=1965年生まれ。NHKディレクター。『ヤノマミ』で2011年大宅壮一ノンフィクション賞。

 新潮社 1600円

37692 0 書評 2018/08/27 05:28:00 2018/08/27 05:28:00 「ノモレ」(13日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180820-OYT8I50009-T.jpg?type=thumbnail

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