評・加藤 徹(中国文化学者・明治大教授)

『踏絵を踏んだキリシタン』 安高啓明著

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 江戸時代、キリシタンではないと証明するために踏絵ふみえを踏む「絵踏えふみ」の制度は、長崎と九州の一部の藩、および会津藩だけで行われた。絵踏の厳格さは時代や地域により温度差があった。絵踏の免除を特権的名誉として利用した藩や、長崎奉行から貸与された大切な踏絵を紛失した藩もあった。

 時代がくだると、絵踏は年中行事化し、形骸化した。1805年、天草で、5205人の村民が潜伏キリシタンの容疑で検挙された。明らかにクロだった。が、行政側は、村民はキリシタンではなく、先祖伝来の「心得違い」の異宗を信仰しているのだと認定した。村民は先祖代々、毎年の絵踏をパスしてきた。いまさら発覚したら行政側は面目丸つぶれだ。潜伏キリシタン側はすすんで踏絵を踏み、したたかに生き残ったのだ。

 明治以降、絵踏の実情は忘れられた。外国人や好事家に売るため、踏絵やマリア観音の偽物が作られた。小説『沈黙』を書いた遠藤周作を感動させた踏絵も、実は模造品だった。キリシタン史=悲劇の歴史、という固定観念をゆさぶる、刺激的な本である。

 吉川弘文館、1800円

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38435 0 書評 2018/09/03 05:21:00 2018/09/03 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180827-OYT8I50097-T.jpg?type=thumbnail

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