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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

    『禅とジブリ』 鈴木敏夫著

    人生という道楽

     「道楽」は「仏道を歩むことを楽しむ」という仏教用語だ。世間では、生産的な仕事と無関係の遊び、という意味で使う。良寛の書や白隠の禅画は、両者の意味の区別を越えた道楽だ。スタジオジブリのアニメ映画のほぼ全作をプロデュースし『仕事道楽』という著書もある鈴木敏夫氏(1948年生まれ)が、3人の禅僧と丁々発止の対談をする本書も、上乗じょうじょうの道楽だ。

     1979年生まれの細川晋輔和尚は、一般向けの仏教本を多数上梓じょうしし、102歳で亡くなった松原泰道の孫。修行中に雲水衣でジブリ作品『千と千尋の神隠し』を見に行ったほどのアニメ好きだ。東日本大震災のとき、細川和尚は被災者から「死んだらあの人に会えますか」とかれた。「会える」とは簡単に答えられない。細川和尚の答えは、禅の開祖・達磨だるまや、ジブリの『もののけ姫』の主人公の言葉と同じだった。それは本書を読んでのお楽しみである。

     64年生まれの横田南嶺老師は、ジブリやアニメは好きではない、昔話ばかりする坊さんの集まりは大嫌い、と言う痛快な高僧だが、人生の苦しみや死など、ジブリ作品のテーマと仏教の共通点を、やさしく説き明かす。

     56年生まれで芥川賞作家でもある玄侑宗久和尚は、現代の世界に広まった禅はインドでも中国でもなく日本の禅であること、その理由はジブリ作品のある特徴と共通することを指摘する。ビートルズや植木等の歌にも言及する。

     鈴木氏は、有名・無名の老若男女の生きかたも、積極的に話題にする。92歳まで生きた母親、若死にした妹。ずっと仕事をしてきた「宮さん」(宮崎駿氏。41年生まれ)の変人ぶり。80歳まで生きた身内がほとんどいない宮さんの覚悟。鈴木氏の口吻こうふんを通じ、私たち読者の現在や未来の分身も対談に参加しているような臨場感がある。禅やアニメの予備知識がなくても、すらすらと読める。人生という道楽について、あらためて考えさせられた。

     ◇すずき・としお=愛知県生まれ。1978年から雑誌編集のかたわら宮崎駿、高畑勲監督のアニメ作品を制作。

     淡交社 1600円

    2018年09月10日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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