『世界史を大きく動かした植物』 稲垣栄洋著
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地球の真の支配者か
理系の学者が語る世界史は面白い。米国の進化生物学者が書いた人類史『銃・病原菌・鉄』は、複雑にからまった歴史をすっきり見通す単純明快なパースペクティブを提示し、ベストセラーになった。植物学者である著者が本書で示す見取り図は、さらに壮大で面白い。
植物は数億年前から、巧みに動物を利用してきた。昆虫、恐竜、鳥、哺乳類。植物は動物を籠絡し、種子を広く散布させてきた。
コムギやイネなどのイネ科植物は、種子に炭水化物を蓄える。人間が炭水化物を
コショウは、熱帯の病原菌や害虫から身を守るため辛味成分を発達させた。それがヨーロッパ人を魅了し、大航海時代を招いた。トウガラシの辛味は、食べた人間の脳に「脳内モルヒネ」を分泌させる。新大陸からコロンブスが持ち出したトウガラシは、近世のアジアで爆発的に広まった。チャ(茶)のカフェインの魔力は、アメリカ独立戦争やアヘン戦争を起こした。ワタは産業革命と米国の奴隷制の原因となった。チューリップは史上初のバブル崩壊をもたらした。その他、トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、サクラなど、さまざまな植物が歴史を動かしてきた。地球の真の支配者は、人類か、それとも植物か。
本書を読み、ふと思った。地球温暖化や大気中の二酸化炭素濃度上昇は、植物の生育にとってはプラス、という説がある。まさか、人類の産業活動と環境破壊までもが、植物の陰謀なのか。ともあれ、人類の歴史と未来が植物と切り離せぬことは確かである。
◇いながき・ひでひろ=1968年生まれ。静岡大農学部教授。著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』など。
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