評・加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

『世界史を大きく動かした植物』 稲垣栄洋著

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(7日、社内で)=萩本朋子撮影
(7日、社内で)=萩本朋子撮影

地球の真の支配者か

 理系の学者が語る世界史は面白い。米国の進化生物学者が書いた人類史『銃・病原菌・鉄』は、複雑にからまった歴史をすっきり見通す単純明快なパースペクティブを提示し、ベストセラーになった。植物学者である著者が本書で示す見取り図は、さらに壮大で面白い。

 植物は数億年前から、巧みに動物を利用してきた。昆虫、恐竜、鳥、哺乳類。植物は動物を籠絡し、種子を広く散布させてきた。

 コムギやイネなどのイネ科植物は、種子に炭水化物を蓄える。人間が炭水化物を咀嚼そしゃくすると、唾液の酵素の働きで糖になる。甘味は人間に幸福感をもたらす。また穀物の種子は、保存や分配にも便利だ。これは「富」という新しい概念をもたらした。太古の人類は、穀物のとりことなった。みなが平等だった狩猟生活を捨て、過酷な労働を必要とする農業を始めた。植物のせいで、後戻りできぬ道に入ったのである。

 コショウは、熱帯の病原菌や害虫から身を守るため辛味成分を発達させた。それがヨーロッパ人を魅了し、大航海時代を招いた。トウガラシの辛味は、食べた人間の脳に「脳内モルヒネ」を分泌させる。新大陸からコロンブスが持ち出したトウガラシは、近世のアジアで爆発的に広まった。チャ(茶)のカフェインの魔力は、アメリカ独立戦争やアヘン戦争を起こした。ワタは産業革命と米国の奴隷制の原因となった。チューリップは史上初のバブル崩壊をもたらした。その他、トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、サクラなど、さまざまな植物が歴史を動かしてきた。地球の真の支配者は、人類か、それとも植物か。

 本書を読み、ふと思った。地球温暖化や大気中の二酸化炭素濃度上昇は、植物の生育にとってはプラス、という説がある。まさか、人類の産業活動と環境破壊までもが、植物の陰謀なのか。ともあれ、人類の歴史と未来が植物と切り離せぬことは確かである。

 ◇いながき・ひでひろ=1968年生まれ。静岡大農学部教授。著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』など。

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40877 0 書評 2018/09/17 05:27:00 2018/09/17 05:27:00 (7日、社内で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180910-OYT8I50029-T.jpg?type=thumbnail

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