『エドガルド・モルターラ誘拐事件』 デヴィッド・I・カーツァー著

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書評(14日午後7時57分、本社で)=守谷遼平撮影
書評(14日午後7時57分、本社で)=守谷遼平撮影

歴史に 翻弄ほんろう された家族

 ピュリツァー賞受賞歴史学者によるおどろきの歴史ノンフィクションだ。タイトルは誘拐だが、実際は逮捕拉致か。一八五八年六月のある夜、イタリア、ボローニャ。ユダヤ人商人の家を教皇警察隊が取り囲む。標的は六歳の少年エドガルド。警察は教皇ピウス九世の命により少年を連行、少年は改宗者を収容する修道院に送り込まれる。家族は少年の返還を求めるが聞き入れられない。エドガルドは家族が知らぬ間に洗礼を受けさせられてキリスト教徒となっており、異教徒であるユダヤ教徒とキリスト教徒の同居を認めない教会法による逮捕だった。家族の知らぬ洗礼改宗の犯人は子守りのキリスト教徒、さらにそれを密告した人物がいた。このような例はさまざまな動機からほかにもあったが、エドガルド事件が世の注目を集めたのは、家族が海外に支援を求めたためだった。

 イタリア半島は統一前の混乱期にあった。その情勢に注目するフランスのナポレオン三世が事件に介入、英国ユダヤ系貴族も抗議の声を上げ、さらにすでに国際金融資本として活動していたやはりユダヤ系のロスチャイルド家も遠くアメリカで動き出す。事件は国際問題化、ローマ教皇庁と家族、そして各国の思惑が入り乱れる。教皇庁の横暴を象徴する事件となって、各地で続く統一を求める暴動も混乱に拍車をかける。一八六一年、ついにイタリア半島は王国として統一される。

 結論からいえば、少年は家族のもとに帰ることはなかった。だが、物語はそれで終わらない。家族は謎の殺人事件に関わってさらなる試練にさらされる。エドガルド少年のその後の人生はといえば、これまたいやはやなんとも。読み終えて、しばし呆然ぼうぜん。著者によると事件は歴史の闇に埋もれていたとのこと、そのワケはあとがきに詳しい。大きな歴史のうねりにみ込まれた家族の運命をスリリングに活写して、スピルバーグによる映画化が決まっている。漆原敦子訳。

 ◇David I. Kertzer=1948年生まれ。米ブラウン大教授。イタリア政治、社会人類学などを専門とする。

 早川書房 3000円

無断転載禁止
42220 0 書評 2018/10/01 05:27:00 2018/10/01 05:27:00 書評(14日午後7時57分、本社で)=守谷遼平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180925-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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