『風の演劇 評伝別役実』 内田洋一著

無断転載禁止
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

書評(14日午後7時59分、本社で)=守谷遼平撮影
書評(14日午後7時59分、本社で)=守谷遼平撮影

不条理をたどる不条理

 電信柱とベンチだけが置かれた空間を、風が吹き抜けていく。名前を与えられず、ただ「男1」とか「女1」と指定された登場人物たちが、電信柱の下にゴザを敷いて、お茶を飲んだり、おにぎりを食べたりする。舞台の上で展開する状況は、たいへん切迫しているようでもあり、奇妙になごやかなようでもある。おっとりとした台詞セリフ回しや超然としたたたずまいで、後者の要素を成り立たせていたのが、岸田今日子と中村伸郎だった。

 別役実は1961年の「AとBと一人の女」以来、不条理劇を書き続け、わが国の演劇史上に大きな足跡を残してきた。本書は、その別役実という存在を核にしてまとめられた時代史である。別役の生涯や作品を追いながら、それぞれの時代の世相を描き、演劇と社会との関係をひもといていく構成をとる。一般的な伝記よりも、あえてフォーカスを甘くして、別役の周りに吹く風をとらえようとしたといえるかもしれない。

 別役実は、1937年に満州国の首都新京(現在の中国・長春)で生まれた。の地で父を亡くし、母は一人で5人の子供を連れて引き揚げてきた。その後も各地を転々としたので、故郷と呼べる所はないという。茫漠ぼうばくと広がる大陸の風景と乾いた気候、戦後のよそ者めいた暮らしは、宇宙へのつながりを感じさせる彼の舞台空間や、さまよう人物像に反映されている。そして「子どもの頃のヒーローはなんでしたか」という質問に対する答えは、「スパイ」。

 不条理劇の内容を説明するという行為そのものが不条理である。そして、その作者は作品以上につかみどころがない。

 別役は現在パーキンソン病を患っており、「野垂れ死にしたい」と盛んに口にしているそうだ。別役さん、どうかそんなかなしいことを言わないでください。でも、もしもそうなったら、あなたが死んだ場所には小さな花が咲き、きれいなタマシイのように揺れることでしょう。

 ◇うちだ・よういち=1960年生まれ。日本経済新聞社編集委員。著書に『現代演劇の地図』『危機と劇場』など。

 白水社 4200円

42151 0 書評 2018/10/01 05:24:00 2018/10/01 05:24:00 書評(14日午後7時59分、本社で)=守谷遼平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180925-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ