評・本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

『戦国大名と分国法』 清水克行著

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「戦国大名と分国法」
「戦国大名と分国法」

条文が語る戦国社会

 戦国大名が、領国を統治するために制定した法典が分国法である。法制史の分野では、重要な研究対象となっているが、ひろく一般に知られているとはいいがたい。だが分国法は、合戦をくりかえしながら自らの領国を創りあげていこうとする、大名たちの命がけの営為の中から、いわば内発的に生み出されたものである。それぞれの大名の個性や領国の事情を反映した、魅力的な内容を持つ。本書は戦国大名たちの「深い苦悩や、ゆがんだ自尊心や、愛らしいいい加減さがしっかりと刻み込まれている」分国法を読み解き、等身大の戦国大名像と、彼らが切り結んだ戦国社会の実相をあきらかにすることを目指している。

 著者がとりあげるのは、結城・伊達・六角・今川・武田の五つの分国法だ。領国の発展段階や、家臣団との関係、慣習法・先行法の継受の有無などに応じて、いずれも独自のスタイルを築いている。

 たとえば下総国結城を治めた結城政勝による「結城氏新法度」は、法律というよりも、家臣に対する愚痴や恫喝どうかつなどを、つらつら書きつづった手紙のようにみえる。そのうえ俗語や方言らしき不思議な表現が頻出し、そのまま適用したら混乱は避けられないという代物だった。

 また近江を領国とする六角承禎・義治父子の「六角氏式目」は、家臣団が原案を起草して、その内容に当主父子が承認を与えるという手続きを踏んで成立した。家臣団が当主の専横を制御するための法だったのだという。

 それで分国法を定めた大名が戦国乱世を勝ち抜いたかというと、あにはからんや、むしろ惨めな末路をたどっているのである。彼らの努力は時代のあだ花にすぎなかったのか? 法とは何か? 政権の成熟とは、公権力とは――と、本書は多くの疑問を投げかける。厄介な法の条文とその背景を巧みに説きあかし、歴史の本質へと導く著者の手際はまことに鮮やかである。

 ◇しみず・かつゆき=1971年生まれ。明治大教授。専門は日本中世史。著書に『日本神判史』など。

 岩波新書 820円

44203 0 書評 2018/10/15 05:22:00 2018/10/15 05:22:00 「戦国大名と分国法」 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181009-OYT8I50051-T.jpg?type=thumbnail

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