『カミングアウト LGBTの社員とその同僚に贈るメッセージ』 ジョン・ブラウン著
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寛容が生産性を生む
「生産性」という言葉は苦手だが、本書が訴える内容はすっと胸に入った。
著者は、英国の多国籍企業・BPの元CEOである。幼いころ、アウシュヴィッツを生き残った母親の「他人を信頼して秘密を明かしては絶対にだめ」という教えを心に刻み、ずっと「ガラスのクローゼット」の中で生きてきた。本当の自分を隠し、BPを中規模企業から世界第3位の大会社に育てあげた。が、隠してきた秘密をゴシップ紙に暴かれ、屈辱的な辞職に至る。転落した著者に、新しい人生が開けた。
「私はゲイコミュニティ全体を代弁しようというつもりはない。カミングアウトの経験は、人それぞれだ」と述べる著者は、自分の人生を赤裸々に明かし、専門家の報告や、LGBT(性的少数者)と呼ばれる人々が語る苦悩を丹念に紹介する。そして、従業員がカミングアウトできるように企業がとるべき道筋を提案する。
カミングアウトは勇気がいる。LGBTへの偏見が根強い国や業界も多い。一方、LGBTに寛容な業界や都市は、革新的で優秀な人々を引きつけ生産性が高いという統計的な事実がある。同性のカップルが手をつないで道を歩ける町は、インド人技術者やタトゥーだらけのソフトウェアオタク、外国生まれの起業家にも居心地がよい。ゲイの上司は自らの苦労体験があるため、シングルマザーや有色人種など多様性を尊重し、LGBTではない部下も高い満足度で働ける。専門家によるそのような報告も紹介した上で、著者は「私たちは、誰しも貢献したいと願っている」と訴える。著者はもうCEOではないが「ある意味、以前よりも確実に生産的になっているかもしれない。隠し事をするのに無駄な時間を使わなくなったからだ」。
日本でも13人に1人がLGBTであるという。安心してカミングアウトできるやさしい職場は、きっと、誰もがのびのびと働ける風通しのよい場所であろう。松本裕訳。
◇John Browne=1948年生まれ。95~2007年、世界的エネルギー企業BPのCEO(最高経営責任者)。
英治出版 1900円












