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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

    『宇宙はどこまで行けるか』 小泉宏之著

    物理学の理屈丁寧に

     この十月二十日(日本時間)、日本が開発した水星探査機がついに打ち上げられた。

     宇宙探査の報道は「はやぶさ」ブーム以来、以前に増して注目を集めるようになっている。しかしその割には、ロケット打ち上げや探査の仕組みは、あまり知られていない。

     本書の著者は、ロケットエンジンの開発に長らく携わってきた専門家。地球から宇宙に向けて物体を打ち上げるには、どれだけの推進力が必要かから始まって、宇宙探査に関するさまざまな話題を面白く読ませる。惑星探査のためのさまざまなノウハウ、また太陽系の外に探査機を送るために必要な技術群、はては将来の、太陽系外への人類移住に至るまで、実に幅広い。

     ここで特筆すべきは、個々の話題に深く関わる物理学上の理屈を、全くの初心者にも分かりやすく丁寧に解説しているところだ。そのためまるで、宇宙という魅力あるテーマを追ううちに、いつしか物理学の基本までも習得してしまった、という読後感を覚える。実にうまい。

     そう思って後書きを読んでみて、なるほどと思った。日本の理系啓蒙けいもう書としては珍しく、編集者が積極的に意見を述べ、二人三脚の形で完成度の高いものを目指した作品らしい。欧米の啓蒙書ではそれがふつうだが、日本ではこのスタイルはいままれだ。本書ではこれがたいへんうまく成功している。もちろん著者自身の筆力が優れているからこその実現だが、他社でもぜひ真似まねてほしい。

     なお本書は最後、未来の話にうつる。太陽系外への人類移住が実現するほどの未来ともなれば、いわゆるシンギュラリティが起き、人類の知性は飛躍的に向上すると著者は見る。そしてその頃には、人類は自らの遺伝子を設計し直しているだろうとも予測する。ここまで来ると私には事の是非が容易に判断できないが、宇宙レベルの思考というのはこういうことかと、納得させられる点も確かにある。

     ◇こいずみ・ひろゆき=1977年東京都生まれ。東京大准教授。小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトに携わった。

     中公新書 1000円

    2018年11月12日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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