評・伊藤 亜紗(美学者・東京工業大准教授)

『見知らぬものと出会う』 木村大治著

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「見知らぬものと出会う」(9日、本社内で)=西孝高撮影
「見知らぬものと出会う」(9日、本社内で)=西孝高撮影

「宇宙人」にそなえる

 以前こんなゲームをしたことがある。六人のプレイヤーのうち、二人は目隠し、二人は耳栓をし、残りの二人は口を開いてはいけない。この相互に異なる身体的条件下で「しりとり」をするのだ。身りや筆談を交えて何とか言葉をつないでいくのだが、途中で困ったことが起こった。プレイヤーの一人がルールを誤解していて、「しりとり」ではなく「伝言ゲーム」を始めてしまったのだ。この異変に気づくのに数分、それを他のメンバー間で共有するのに数分、何度か試みたものの、結局当人に間違いを分からせることはできなかった。

 コミュニケーションというと、ついメッセージの発信者と受信者の間であらかじめルールが共有されており、そのルールに基づいて情報をやりとりするような状況を想定しがちだ。しかし実際には、必ずしもルールは共有されているとは限らない。というか大部分の場合において共有はされていないのであって、お互いにルールをすり合わせることと情報のやりとりが同時進行するのがコミュニケーションである。先のゲームのように、自分には思いもよらないルールに相手が従っているかもしれない可能性は、実際にある。

 本書が分析するのは、そんな「ルールを共有しない他者」の究極たる「宇宙人」とのコミュニケーションである。なんだ、SFか? 確かにSFネタは存分にちりばめられているのだが、著者の専門はあくまで人類学。アフリカの狩猟採集民の村等でフィールドワークを行いながら、コミュニケーションの多様な形態を分析してきた研究者による、宇宙人類学の書だ。ウィトゲンシュタインやベイトソンを用いた規則の成立に関する詳細な分析のほか、「ベジタリアンの傾斜」「規則性のくぼみ」など現象を命名する著者独特のセンス(詩的だが数学の定理のようでもある)も楽しい。さあ、接触にそなえたまえ。

 ◇きむら・だいじ=1960年、愛媛県生まれ。人類学者、京都大教授。アジア・アフリカ地域研究が専門。

 東京大学出版会 2800円

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50392 0 書評 2018/11/26 05:26:00 2018/11/26 05:26:00 「見知らぬものと出会う」(9日、本社内で)=西孝高撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181119-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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