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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・岸本佐知子(翻訳家)

    『静かに、ねぇ、静かに』 本谷有希子著

    突き抜けた清々しさ

     読みながら、何度も「うわあ……」と変な声が出た。収められた三編は、どれもダメな人々がさらにダメになっていく話だ。あまりにリアルで息苦しく、逃げ出したいと思いながら、ページを繰る手を止められなかった。

     冒頭の「本当の旅」では四十近い自称クリエーター、実質ニートの男女三人がマレーシアに旅行する。彼らは何もかもをスマホで記録することに明け暮れ、インスタ上で自分たちが楽しそうに「見える」ことを何より重視する。都合の悪い出来事は編集で全部カット。ネットにあふれる借り物のきれいな言葉で自分のダメさを正当化し、互いに「いいね」「いいね」と肯定しあうことでそれをさらに補強する。<俺は、俺の眼差まなざしを守ってる。社会から報酬をもらわないことで、人とは違う眼差しを手に入れてる。どんな眼差し? 子供の眼差しだよ>。全編にそんな気持ちの悪いえせポジティブ会話があふれている。そうやって目の前の現実に対して思考停止を続けた結果、三人はある深刻な状況におちいるが、そんな風になってもなお自撮り棒の前でポーズを取ることをやめられない。

     ネットショッピング中毒の主婦。なんとか普通の生活を手に入れようとあがく失業夫婦。イヤすぎて目を背けたくなるが、そうできないのは、ぜんぜん他人事という気がしないからだ。生きる力が弱すぎてネットに頼らずにいられない、この人たちを笑うことは、一日たりともツイッターを我慢できない私にはできない。

     この本の表紙、題名(頭文字をつなぐとSNSになる)が裏返しになっている。じっと見ていると、自分が鏡の裏側にいるような気がしてくる。「ほら、これはあなただよ」そう言われているようだ。けれども非難も断罪もせず、ただ淡々と情景を写し取る作者の態度は、非情を突き抜けていっそ清々すがすがしい。私たちはもうここから始めていくしかないんだ、そんな裏返しの勇気すらいてくる気がする。

     ◇もとや・ゆきこ=1979年、石川県生まれ。作家、劇作家。『異類婚姻(たん)』で芥川賞を受賞。

     講談社 1400円

    2018年12月03日 05時28分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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