『プラハ、二〇世紀の首都』 デレク・セイヤー著
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花開くシュルレアリスム
なぜ「20世紀の首都がプラハ」なのか。19世紀の首都「光の都」パリに対し、プラハはその「暗さ」が特徴だと、著者は言う。しかし、その<古いヨーロッパの魔法の都>には、アヴァンギャルド、モダニティ、シュルレアリスムといった多彩な文学や芸術が花開いた。ホロコースト、スターリンの時代に生きたシュルレアリストの足跡を
「ユダヤ人街の大時計の針はさかさにまわる」。シュルレアリスムという単語を創り出したアポリネールが若い頃、20世紀初頭のプラハに滞在した記憶に基づく詩の一節は、シュルレアリスムとプラハを語る象徴的な言葉だ。プラハは中欧のユダヤ人コミュニティの中核だった。ユダヤ人ゲットーで育ったカフカは、「私たちの内部には、相変わらず暗い場末が生きています、
1918年にハプスブルク帝国から独立したチェコは、ナチスドイツの保護領、ソ連の監視下にあった共産主義体制を経て、民主国家に至るまで様々な激動を経験した。タイゲやネズヴァルらがパリの芸術家たちに倣って、チェコ・シュルレアリスム・グループを結成したのは34年、ヒトラーが政権の座についた翌年のことだった。「コミカルな卑俗さ」「風刺とユーモア」を特徴とする作品は、ナチスやソ連公認の「民族的」「道徳的」芸術の対極にある。
「プラハの春」後、フランスに亡命した作家ミラン・クンデラは、大国の
◇Derek Sayer=1950年英国生まれ。アルバータ大名誉教授。本書でジョージ・L・モス賞など受賞。
白水社 1万3500円