評・土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』 オリヴィエ・ゲーズ著/『パールとスターシャ』 アフィニティ・コナー著

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「パールとスターシャ」「ヨーゼフ・メンゲレの逃亡」(23日、社内で)=今野絵里撮影
「パールとスターシャ」「ヨーゼフ・メンゲレの逃亡」(23日、社内で)=今野絵里撮影

個人の生がつむぐ歴史

 アウシュヴィッツの<死の天使>こと医師ヨーゼフ・メンゲレ。強制収容所のユダヤ人の生殺与奪をほしいままに、優生学のためと称した凄惨せいさんな生体実験で多くの命をほふった。南米逃亡中にイスラエル諜報ちょうほう機関によって逮捕処刑されたアドルフ・アイヒマンと並ぶナチス・ドイツの残虐行為の象徴的人物であり、二十世紀の「怪物」のひとりである。第二次世界大戦でドイツが敗れると、連合国の追跡をかわして、南米へと脱出、アイヒマンら逃亡者が次々ととらわれ断罪されるなか、メンゲレはついに逃げ通して、一九七九年、潜伏地ブラジルで六十七歳で死亡した。

 その逃亡から死までを緻密ちみつにして綿密な取材で追ったのが『ヨーゼフ・メンゲレの逃亡』。戦犯の逃亡を助ける組織が、故郷の家族がメンゲレの潜伏を支える。潜伏中の晩年の父をドイツからたずねた息子のエピソードなど、多くの思惑と葛藤が複雑に絡まり合った逃避行の果てに、メンゲレを待っていたのは恐怖と絶望、孤独と老残の死だった。認知症だったともある。

 アウシュヴィッツのメンゲレは収容者から双生児の子どもたちを選別して生体実験を行なった。実験対象となったひと組の姉妹を中心に、メンゲレらナチスの、子どもたちを生き延びさせようと苦闘するユダヤ人収容者の、そして過酷な運命にさらされながら生を支え合う子どもたちの姿を描いたのが『パールとスターシャ』。本書は小説ではあるが、訳者あとがきによるとなかにはモデルとなった実在の人物もいる。生き残った彼ら彼女たちの自由への行路とその後の人生に、読者は己の背筋を伸ばさずにはいられないはずだ。人間とはかくもたくましい。

 抑えた筆致で加害者と被害者の<生>に迫った偶然の連作ともいうべきこの二冊、ぜひとも続けて読まれたい。大言壮語や声高なスローガンからは決して見えてこない、個人の<生>こそが語りかけてくる確かな歴史がここにある。高橋啓/野口百合子訳。

 ◇Olivier Guez=フランスのフリージャーナリスト

 東京創元社 1800円

 ◇Affinity Konar=アメリカの女性作家。

 東京創元社 2900円

52254 0 書評 2018/12/10 05:26:00 2018/12/10 05:26:00 「パールとスターシャ」「ヨーゼフ・メンゲレの逃亡」(23日、社内で)=今野絵里撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181203-OYT8I50005-T.jpg?type=thumbnail

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