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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・服部文祥(登山家・作家)

    『帰れない山』 パオロ・コニェッティ著

    山と命と友情の物語

     イタリア北部の大都市ミラノから直線距離で80キロほど。アルプスの名峰モンテ・ローザ麓の村が舞台である。主人公の父親は登山を趣味とする戦争孤児で、脚力と心肺機能の強さに自信を持つ頑固者。息子と一緒に登るときでも他の登山者を追い抜くことに喜びを見いだしている。母親は山頂よりも自然散策が好きな理想主義者。両親が山里に別荘を借りたため、ミラノ育ちの「僕」の人生にも山が入り込んでくる。山村の親戚のもとで牛飼いをする、同い年のブルーノに出会い、心を通わせる。

     著者は1978年生まれ。自伝的小説らしい。父親は「僕」とブルーノを連れて、氷河を目指す。母親はブルーノをミラノに連れて行って、教育を受けさせようと画策する。

     出稼ぎから帰ったブルーノの父親によって、ブルーノのミラノ行きは阻止される。「僕」はしだいに山の別荘に行く機会が減り、成長とともに強引な父親とも疎遠になる。

     やがて父親が死に「僕」が父親に反発していた空白の時間に、父が独りで山に登り、ブルーノと時間をともにしていたことがわかってくる。嫉妬とともに安らぎと救済を感じた主人公はブルーノに再会する。大人になった二人だったが、かつてザイルを結び合った友情は、時を超えても二人をつないでいた。

     ここでまだ物語は中間地点をすぎたところ。「僕」もブルーノも別々の人生を歩みつつ、お互いを認め、心のどこかで気に掛け、必要なときにそっと手を伸ばす。そんな友情が交わる時、そこにはいつも山がある。

     読むものを驚かす仕掛けや、華々しい事件はない。折々の美しさと、時に過酷さを見せる自然のなかで、登場人物がそれぞれの山を胸に秘めながら、自分の人生をただ生きていく。温かく、懐かしく、切なく、そして、どこか危うい命と人の情。その物語が、静かに、強く読者をき付ける。関口英子訳。

     ◇Paolo Cognetti=伊ミラノ生まれの作家。著書に『ソフィアはいつも黒い服を着る』など。

     新潮クレスト・ブックス 2050円

    2018年12月10日 05時27分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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