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    読売新聞の読書委員らによる書評のコーナーです。
    評・三浦瑠麗(国際政治学者・東京大講師)

    『ルポ 不法移民とトランプの闘い』 田原徳容著

    誠実に悩み続けること

     「不法移民」は、存在からして法を犯している存在だ。しかし、その罪とはいったい何なのだろうか。著者は不法移民に対する思い込みを持たずに、取材に向かう。その現場には、目を疑うような実態があった。国境警備隊にわざと捕まり、親切にもボランティアの移民支援施設のところへ送ってもらう不法移民たち。彼らは、母国の貧困と暴力から抜け出すために、多大なリスクを冒してアメリカに向かってくるのだ。現実の人に寄り添えば、機会が与えられてほしい、と思う。しかし、なぜアメリカがそこまで問題を抱え込まなければならないのだろうか。

     著者は、取材をする中で、日系人の強制収容75周年を記念した巡礼の旅に参加する。強制収容は、第二次世界大戦で日本の真珠湾攻撃を受けたアメリカが日系人を民族的に差別した負の歴史だ。自分の祖先や自分自身を重ね合わせて見て、自分事化することは、現代の問題に関して一味違った視野を与えてくれる。

     アメリカは多様だ。寛容な都市「聖域都市」では、警察が不法移民らしき人にあっても何も尋ねず、ほかの犯罪を犯さない限りは放っておくことで彼らと共存する。一方で、息子が不法移民の犯罪の犠牲になり、必死でトランプ大統領の政策を支援する母親もいる――。

     取材を重ねるうち、著者は一元的に物事を処理してしまうことの理不尽さを感じるようになる。能力も意欲もある若者、とりわけアメリカでの生活しか知らない若者が社会で活躍する道を閉ざしてしまう政策。ハリケーンの後の復興など、人びとがやりたがらない低賃金のきつい労働を担った移民たちに冷たい政治。

     不法移民保護か規制かをめぐる大文字の議論の中で、政治化された論争が、彼ら一人一人の人生を変えてしまう。不法移民を今後どのように取り扱っていくのか、そこに明確な答えはないのだが、著者は誠実に悩み続けることの大切さを私たちに教えてくれる。

     ◇たはら・のりまさ=1970年生まれ。読売新聞記者。バンコク特派員や米ロサンゼルス特派員などを経験。

     光文社新書 900円

    2018年12月10日 05時23分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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