『不意撃ち』 辻原登著

無断転載禁止
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

「不意撃ち」辻原登(7日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影
「不意撃ち」辻原登(7日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影

日常の見方変える短編

 五へんを収録した短編集。タイトルどおりの「え!」という展開や結びで驚かせてくれる上に、読後しばらくのあいだ、読む者の日常の見方を変えてしまう力を持った五つの作品だ。悪意の怖さ、愛の優しさ、偶然の皮肉、運命の裏切り。不穏なお話が続く短編集でありながら、読後感はけっして悪くない。

 巻頭の「渡鹿野わたかの」は、この地名をご存じの方には内容がピンとくるかもしれない。でも、お話はそのピンときた方向には収まらない。風俗小説のふりをして始まるこの短編を、私は(誤読だろうけれども)心霊ものとして読んだ。主人公が追いかけている風俗嬢ルミは、ある時点からこの世の人ではなくなっているのだ、と。だからあのラストがある。それだと主人公が付き合った女は誰なのかいぶかしい? でも、そういう読み方も許してくれる謎小説なのだ。

 続く「仮面」と「いかなる因果にて」は犯罪小説である。「出番が来たんちがう?」という台詞せりふ悪辣あくらつ(かつ切実)な意味がだんだんわかってくる「仮面」の結末を痛ましいと感じるのは、善いこともすれば悪いこともする人間の無力さが悲しいからだ。「いかなる因果にて」は異色の逸品で、二〇〇八年に発生した元厚生省事務次官らが殺傷された事件から書き起こし、著者の思い出話を交錯させつつ、ノンフィクション風の筆致で、人生が押しつけてくる理不尽について静謐せいひつつづってゆく。

 「Delusion」は帰還した女性宇宙飛行士が獲得してしまった予知幻覚を扱ってSF風味、「月もくまなきは」は生活を変えたい熱にかれた定年サラリーマンのお話で、どちらもかすかなカタストロフの気配をはらみつつ、はっとするような明るいところに着地する。題材だけを見るならサスペンスものになるのだろうが、そうしたジャンル分けなど本書の前では意味がない。新しい年の初めに、これこそが小説を読む喜びだとただみしめるばかりである。

 ◇つじはら・のぼる=1945年生まれ。90年「村の名前」で芥川賞、2012年『韃靼(だったん)の馬』で司馬遼太郎賞。

 河出書房新社 1600円

60368 0 書評 2019/01/21 05:28:00 2019/01/21 05:28:00 「不意撃ち」辻原登(7日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190115-OYT8I50011-T.jpg?type=thumbnail

ニュースランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ