『わるい食べもの』 千早茜著

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「わるい食べもの」千見茜(7日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影
「わるい食べもの」千見茜(7日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影

ごちそうがいっぱい

 新進の女性小説家による初のエッセイ集。

 外食、家での食事を問わず、普段の生活にごちそうが自然と馴染なじんでいるさまが心地よい。そのごちそうは、決して「豪華な食事」ではなく、食欲がなくてもどんどん食べられる「すだちご飯」だったりする。「すだちご飯」とは、あたたかいご飯に削り節をのせて、甘めの醤油しょうゆをまわしかけ、すだちを搾っただけの、なんでもない一品。とはいえ、美味おいしい米を丁寧に研いだ炊きたてごはんに、新鮮な削り節を載せてこそのものであることは、察しがつく。白菜を鍋料理で使うより、中華いためにすると美味しく感じたところに春の到来を感じる。果物は「狩り」だと断言して自分の手でくことに最大の喜びを味わう。そんなそこはかとなく漂う食いしん坊ぶりが、小説家ならではの緻密ちみつな描写と無駄のない文章でテンポよくつづられる。

 もちろん、ごちそうばかりではない。学校給食や入院食への怒り、疲労時の暴食ぶりを書いた章なども読者の共感を呼ぶのではないか。

 食事中でも寄生虫の話をし、子どもに生けの魚を食べさせる獣医師の父。アフリカで過ごした小学生当時、日本語で日記をつけさせ、自ら教師として赤ペンを入れた国語教師の母。幼少時、彼らとの生活の中に顔を出す、祖母とのエピソードには、ほっこりさせられる。

 客人のカップを決して空にしてはいけない、湯気のたつ1杯の茶は「ここはあなたの場所ですよ」という証のようなもの。心を込めた茶をだすことで、訪ねてきた人にくつろいだ時間を過ごしてもらえるのだと教えた祖母は、「茜のれるお茶はおいしいねえ」と褒めた。そんなところに、食いしん坊のみならず、千早の文章に対する丁寧な姿勢の原点が垣間見られるように思う。私は、人気イラストレーター北澤平祐の装画が目にとまり、手に取った。このエッセイを入り口に千早茜の小説を読み始める人もいるのではないか。私がそうであるように。

 ◇ちはや・あかね=1979年北海道生まれ。主な著書に『魚神』『あとかた』『正しい女たち』ほか。

 集英社 1400円

60418 0 書評 2019/01/21 05:25:00 2019/01/21 05:25:00 「わるい食べもの」千見茜(7日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190115-OYT8I50014-T.jpg?type=thumbnail

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