残酷な進化論…更科功著

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NHK出版新書 800円
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生きているだけで立派

 評・加藤 徹 中国文化学者・明治大教授

 自分は何者か。なぜ生まれ、なぜ死んでゆくのか。本書は、生命40億年の進化を語りつつ、その疑問をやさしく、ユーモラスに説き明かす。

 自然は完璧で、人間は進化の頂点に立つ完成品だ、というのは非科学的な思い込みにすぎない。進化はずぼらで、ゆきあたりばったりだ。

 キリンの脳と喉は30センチメートルしか離れていないが、両者を結ぶ神経はずっと下の心臓まで迷走し、6メートルも遠回りする。私たちの眼球の構造も変だ。光のあたる側に神経線維が出ている。光を遮って邪魔になるのに。この点でイカやタコのより劣る。私たちの肺の設計は、鳥類や恐竜の気嚢きのうに及ばない。排尿までのメカニズムも、トカゲやニワトリに負ける。ヒトの手の形や二足歩行、心筋梗塞こうそくや腰痛、難産、一夫一婦制などを分析すると、一筋縄でゆかぬ進化の正体が見えてくる。

 進化は残酷だ。私たち一人一人の都合も、生殖年齢を過ぎた個体の老後のことも、考えてはくれない。自然淘汰とうたのメカニズムが増やすのは、生物の「子供をより多く残せる形質」だけ。その意味で、進化の「設計ミス」は一概にミスとは言えない。進化は速い。ハワイのコオロギがわずか5年で進化した例もある。進化に完成はない。生物がいくら進化しても環境に完全には適応できない。現に、ある場所に昔からんでいる種も、外来種に簡単に駆逐されてしまう。

 地球は有限だ。生物が自分の命を大切にする行為は、みな生存闘争になる。木々のこずえでさえずる小鳥も、草原でのんびりと草をはむウシも、私もあなたも、今この瞬間「生存闘争」をしているのだ。

 生物がそこまでして生きる目的とは何か。著者が用意した回答は、本書を読んでのお楽しみだが、シンプルでうれしいものだ。「私たちだって、ただ生きているだけで立派なものなのだ」と思えてくる。科学の本質は自然哲学である。学問の目的は自分を知ること。読書の原点を思い出させてくれる良書だ。

 ◇さらしな・いさお=1961年生まれ。東京大総合研究博物館の研究事業協力者。専門は分子古生物学。

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938379 0 書評 2019/12/08 05:00:00 2019/12/16 15:26:00 〈8〉書評〈6〉・「残酷な進化論」 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/12/20191207-OYT8I50041-T.jpg?type=thumbnail

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