ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ著 早川書房 1900円

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◇Delia Owens=米国の動物学者、小説家。現在はアイダホ州でオオカミの保護活動などを行っている。
◇Delia Owens=米国の動物学者、小説家。現在はアイダホ州でオオカミの保護活動などを行っている。

可愛らしく残酷な物語

 評・宮部みゆき(作家)

 著者のディーリア・オーエンズは動物行動学の博士号を持つ動物学者で、本書の前にノンフィクションの著書が三作あるが、小説を書いたのはこれが初めてなのだそうだ。で、昨年アメリカでいちばん売れた本になった。なんと五百万部突破というのだからすごいです。

 多くの読者の心を動かしたこの小説は、アメリカ南部の湿地帯を舞台にしたミステリーであり、家族に見捨てられた孤独な女の子カイアのサバイバル記であり、閉鎖的なコミュニティのなかで生じる偏見や差別をめぐる人間ドラマであり、同じ南部を舞台にしたあの傑作『アラバマ物語』を彷彿ほうふつとさせる裁判シーンもあり、可愛かわいらしくて残酷で身勝手でやるせない青春恋愛小説でもある。

 広大な湿地は、人間にとっては基本的なレベルで生活しづらい場所だ。それでいて美しく生命力に満ちている。人間でさえなければ、ここは天国だ。それが主人公カイアの悲劇であり、それでも人間でなければ持ち得ない「言葉」を心の支えに、カイアは湿原を生き抜いてゆく。作中に登場する動物たちのなかで、いちばん種類が多いのは鳥類だろう。翼のないカイアとの対比のために、わざとたくさんの鳥が描かれているのだと思うのは、深読みだろうか。

 まっすぐな黒髪が豊かで、裸足はだしに丈が短すぎるオーバーオールというで立ちのカイア。母親や兄姉たちが家出してしまい、暴力的な傷痍しょうい軍人の父親と二人きりで湿地の小屋に取り残されたとき、何と七歳だった。現代だったら信じられない案件だが、本書は一九五二年にスタートするお話だ。社会はまだまだ子供の人権に無頓着だった。ミステリーとしてはシンプルな「フーダニット」もので、読み慣れている方ならわりと早い段階で真相が見える――かもしれない。しかし、本書の心臓はそこにはない。ザリガニの鳴くところは、殺人者にとってどんな意味を持つ場所なのか。友廣純訳。

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1148301 0 書評 2020/04/05 05:00:00 2020/04/13 09:59:14 書評(21日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200404-OYT8I50037-T.jpg?type=thumbnail

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