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流人道中記 上・下 浅田次郎著 中央公論新社 各1700円

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二人の旅路の行く末に

 評・南沢奈央(女優)

◇あさだ・じろう=1951年生まれ。作家。『鉄道員』で直木賞。代表作に『中原の虹』『終わらざる夏』など。
◇あさだ・じろう=1951年生まれ。作家。『鉄道員』で直木賞。代表作に『中原の虹』『終わらざる夏』など。

 上巻は一気読み、下巻に入ると数ページごとに本を置いては、腕を組んで嘆息。読み終えたくない。いや、この罪人を押送する旅を終えたくないと思っている。つまり、任務を放棄して、青山玄蕃げんばという男と旅を続けたい――。私は、押送人である石川乙次郎おとじろうに乗り移ったかのように読み進めていた。

 時は、太平の世も終わりに近づいた幕末の頃。乙次郎は、生家の足軽とは格の違う与力の石川家に入り婿をして見習与力となった、よわい19歳の若者。まだ務めにも慣れていない中、二月も要する旅を命じられる。その旅とは、姦通かんつうの罪を犯して切腹を「痛えからいやだ」と拒み、蝦夷えぞへ流刑とされた旗本・青山玄蕃の押送だった。

 罪人とは思えぬ態度の大きさもさることながら、「武士が死にたくないというのはまったく破廉恥のきわみ」である。玄蕃に対して不信感を募らせながら奥州街道を北上していく道中で、二人はさまざまな苦悩を抱えた人々と出会う。その時に、ろくでなしと思っていた玄蕃が見事な機転と思慮深さで次々解決してしまうではないか。何も出来ないでその姿を見た乙次郎は、徐々に胸のつかえが取れ、感化されていく。

 流人は押送人をどこへ連れて行くのか。どこに辿たどり着くのか。いつの間にか、二人の立場をあべこべにして旅路の行く末を見ていた。

 私が読むペースを落として嘆息していたように、初めはいていた乙次郎も、一歩一歩を踏みしめて進む。そして自問自答する。武士とは一体何だろう。「法」や「礼」とは。正義とは。己が信じるもの、とは何だろう。

 二人の旅の終着を目前に、玄蕃は言った。

 「命はひとつきりぞ。うまく使え」

 命あってこそ、歩める人生。乙次郎だけではなく、今の日本人の心に特別な響きを残すのではないか。

 本書は、人生という旅路において、闇夜をあまねく照らす月の光のような存在だ。

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1174191 0 書評 2020/04/19 05:00:00 2020/04/27 10:18:11 書評 流人道中記 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200418-OYT8I50023-T.jpg?type=thumbnail

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