『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』石井妙子著(文芸春秋) 2090円

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水俣に迫る 結束と緊張

評・加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

◇いしい・たえこ=1969年生まれ。『女帝 小池百合子』で、今年、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
◇いしい・たえこ=1969年生まれ。『女帝 小池百合子』で、今年、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

 タイトルに かれた。ユージン・スミスは、市井の人びとの魂を無機質なフィルムにすくい上げることができた 稀有けう な写真家だ。

『ナチ・ドイツの終焉 1944‐45 The End』イアン・カーショー著(白水社) 6820円

 お互い特異な環境に育ったユージンとアイリーンは、運命に導かれるように水俣へ引き寄せられ、3年間生活を共にした患者たちの闘いを記録する。水俣病を奇病として患者を差別し社会から排除する構図は、コロナ禍で右往左往する現在とたいして変わらない。人間は未知の出来事に対していかに愚かな存在であるか。水俣病は特定の地域の過去の出来事ではなく、人間社会の普遍的な問題である……未来と対話し続けてきたユージンの作品は今でも色 せない。

 14年以上前からアイリーンへの取材を続けた著者は、抑制した筆致で二人の道程を追う。と同時に、悪者扱いされたチッソ社長の嶋田賢一の人間的な苦悩、市民同士の偏見と差別、そしてチッソ無しで生きていけない企業城下町の現実、二人が交差した水俣そのものにも目を配りながら、現在上映中の映画とは違った二人の同志的な結びつきと表裏一体の内なる激しい緊張関係を浮かび上がらせる。

 水俣訴訟の勝利、そして「カネが村々に侵入」して人びとの心が すさ んでいくなか、ユージンとアイリーンの心もかけ離れ、別々の みち を歩む。

 ユージン最後の作品『MINAMATA』には、水俣病を世界に知らしめた代表作「入浴する智子と母」が載せられている。しかし、この写真は、著作権者のアイリーンによって封印されていたそうだ。一枚の物言わぬ写真が、被写体の魂を浮かび上がらせ見る人の心を揺さぶる。しかし、その波紋がどこまでも広がることにたじろぐ智子の家族もいた。

 主観にこだわり本質をえぐり出すユージンの作品は、人に感動を与える一方で人を拒絶し、人を惑わす。ジャーナリズム、そして芸術が持つ力と ごう ――著者はアイリーンを通して一筋縄ではいかない「水俣」の現実を突きつける。

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2442829 0 書評 2021/10/15 05:20:00 2021/10/15 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/10/20211011-OYT8I50094-T.jpg?type=thumbnail

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