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デジタルツールの技量を上げる道

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編集委員 東一真

 専門家や著名人の講演会を開催し、ネット上で無料配信している米国の非営利団体「TED」をご存じですか? 公式サイトはこちらです。学術、芸術、社会問題、先端科学、生き方論などについてレベルの高い講演の動画がたくさん載っています。講演者の多くはアメリカ人ですが、多くの動画に日本語字幕があり、とても勉強になるサイトです。スマートフォンの専用アプリもあり、日本語字幕の動画を一覧表示させることもできます。

 きょうは、しばらく前にTEDで見て感銘を受けたエドアルド・ブリセーニョという人の講演をまず紹介しましょう(この人は、「マインドセット・ワークス」という教育会社の社長ということです)。講演のタイトルは「自分にとって大切なことがもっと上達する方法」です。講演の中心テーマは、どんな分野でも技量を上げるためには、「学習領域」と「パフォーマンス領域」の両方を計画的に行ったり来たりする必要がある、というものでした。パフォーマンス領域とは「実践」のゾーンという意味です。だから実践と学習を計画的に行き来せよ、といっているわけです。

 講演のなかでブリセーニュ氏は、次のような例を示します。多くの人は、仕事として1日何時間もパソコンで文書を作成しているが、タイピングの速度は上がらない。一方、1日10分でも20分でもいいから、タイピングに特化したトレーニングを続けると、タイピングの速度が上がり、ミスタイプは減る。つまりタイピング技術は飛躍的に上達する。

 パソコンで報告書を作るのは「パフォーマンス領域」での活動であり、タイピングのトレーニングは「学習領域」の活動というわけです。この二つは、おなじようにパソコンのキーボードをたたいていても、目的も集中するポイントも異なります。

 パソコンで報告書を作成する時、報告書の内容をどう書くかに意識が集中しているわけです。仕事の成果を上げるために、すでに習得しているタイピング技術を使ってよりよい報告書を書くのです。タイピングの速度など関係ないし、ミスタッチを減らそうとも考えないので、タイピングはうまくなりません。

 一方、タイピングの学習をする際には、上達することだけを目標とします。頻繁に打ち間違えるキー(例えばSを打ち間違える人はSキー)を何度も練習して、つまり「未習得の技術に焦点をあてて」、専用のトレーニングをします。こういうトレーニングをすれば、タイピングの技量は格段に上がるでしょう。

 特にブリセーニョさんが強調していたのは、ある程度経験を積んだ専門家が「もう十分技量が身についた」と考えて、パフォーマンス領域だけにとどまり(つまりは、仕事ばかりをして、学習をしなくなって)、その専門領域で伸びが止まることが多いということでした。

 「習うより慣れよ」と俗に言いますが、「慣れた後もきちんと習え」というのもまた正しいのだなと、この講演動画を見て思いました。様々な技量は実践のなかで磨かれることは確かでしょうが、実践ばかりしていては上達が止まるようです。この動画を見た後は、私も意識して「学習領域」に身を置こうと努力しています。

 パソコンやスマホの扱いのようなデジタルのノウハウについても、全く同じことが言えると思います。もしも、パソコンやスマホの扱いがうまくなろうと思うのなら、実用として使う以外に、学習する時間を設けたらいかがでしょう。それこそ、1日に10分でも、20分でも。

 1月10日のデジライフ面では、パソコンの便利なショートカット・キーを紹介しました。記事の前文では、「パソコンを使っている人でも案外知らない便利なショートカット・キーがある。覚えればパソコンの扱いが楽になる。年の初めに学び直してみては」と書きました。実はこれ、「パフォーマンス領域」にいるだけでは学べないから「学習領域」で学びましょう、という思いを込めて書きました。ショートカット・キーはパソコンを何十年使っていても自然と覚えるものではない一方で、意識して二つ三つ覚えるだけでも、実践で便利に使えるようになるものです。

 ワードやエクセル、パワーポイントなどのアプリの使い方も同様です。慣れるだけでちゃんと学ばないと、機能を使いこなすことはできないでしょう。つまりデジタルは、積極的に時間をつくって学ばなければ、知り得ないことが多い分野だと思います。

 私の知人の例を挙げましょう。その人は、ワードで二重かぎ括弧(つまり『』ですね)を表示させるのに、ひらがなで「かっこ」と打ち込んで変換していました。ずっと20年もこのやり方で二重かぎ括弧を出していて、「二重かぎ括弧を出すのは面倒だなあ」と考えていたのです。この人はつい最近、キーボードの右端にあるかぎ括弧のキーを普通に打って変換を押せば二重かぎ括弧を出せることに気づいて、「え、こんな簡単に出せたんだ」と仰天していました。

 この人は、学習せずに実践ばかりしていたから、20年間も気づかなかったわけですね。ちなみに「知人」というのはウソで、正直に言えば、これは私自身の話です。はい、私もデジタルの勉強をしなければならない人間でありました。それなのに今回は、上から目線の偉そうなコラムを書いてしまい、誠にすみませんでした!

プロフィル
東 一真( ひがし・かずまさ
 鹿児島市生まれ。読売新聞入社後は、編集局地方部(盛岡支局、新潟支局)を経て経済部、国際部。この間、米ハーバード大客員研究員や北京特派員も体験した。その後、メディア局で約7年間、「ヨリモ」「読売プレミアム」などウェブサイト運営に携わり、2018年4月からデジライフ面の編集を担当。著書に『「シリコンバレー」のつくり方』『中国の不思議な資本主義』(ともに中公新書ラクレ)。好きな作家はフィリップ・K・ディック。

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1824294 0 シニアのための編集長コラム 2021/02/06 17:23:00 2021/02/08 17:02:16 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210126-OYT1I50058-T.jpg?type=thumbnail

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