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    セクハラやパワハラ、ネット犯罪に対処するための法律の知識が身に着くコラム。

    並行輸入品の取り扱い、違法との線引きはどこに?

    商標権侵害があった場合の法的手段

     商標権者が、第三者が商標権を侵害している可能性があると考えた場合には、通常、侵害行為を行っている者に対して警告状を送付して、侵害行為を止めるよう求めます。すなわち、真正商品の並行輸入と認められない場合、まず並行輸入業者に対して、商標権者から商標法に基づく差し止め請求がなされることが通常です。具体的には、商標権者は、商標法に基づき、侵害行為の停止、予防の請求、侵害行為を組成した物や設備等の廃棄と除却の請求ができることとなります。つまり、販売を中止することを求めるとともに、販売された商品の回収等も求めることができるのです。差し止め請求に関しては、商標権侵害者の故意・過失は要件とされておりませんので、商標権侵害があれば、差し止め請求は認められることとなります。

     また、商標権者は、商標権侵害により損害を受けた場合、不法行為に基づき損害賠償請求をすることができます。不法行為に基づき損害賠償請求する場合、商標権者は、商標権侵害者の故意・過失、権利侵害、損害の発生およびその額、不法行為と損害との因果関係を主張・立証する必要があります。差し止め請求とは異なり、商標権侵害者の故意・過失が要件とされていますので、商標侵害者に故意・過失がなければ、損害賠償請求は認められないことになるはずなのですが、商標法上、商標侵害者には「過失が推定される」こととされており、商標権侵害者において、過失の推定を覆さなくてはならないこととなります。

     さらに、通常の損害賠償請求においては、損害の発生およびその額、不法行為と損害との因果関係の立証が実際上困難な場合が多いのですが、商標法の規定によって、商標権者の立証責任が軽減されています。

     まず、商標権者が自ら登録商標を使用している場合であって、商標権侵害者がニセモノを譲渡したときは、その譲渡した商品の数量に、商標権者が、侵害行為がなければ販売することができた商品の単位数量あたりの利益の額を乗じて得た額を、商標権者の使用の能力に応じた額を超えない限度において、商標権者が受けた損害の額とすることができます。また、商標権者が自ら登録商標を使用している場合であって、侵害者がその侵害の行為により利益を受けている時は、その利益の額は商標権者等が受けた損害と推定されます。さらに、商標権者は、商標権を侵害した者に対し、商標権のライセンス料相当額の金銭を、自己が受けた損害としてその賠償を請求することができるとされています

    刑事責任の追及も

     商標権侵害については、刑事事件として取り扱われる場合もあります。個人の場合、最高で10年以下の懲役()しくは1000万円以下の罰金刑、またはこれらが併せて科せられます。会社の業務として行っている場合には、個人とは別に、法人に対して3億円以下の罰金刑が科される可能性があります(両罰規定)。

     冒頭で述べた「チャン・ルー」(CHAN LUU)のブレスレットに関する事件で、販売業者らが商標法違反の疑いで逮捕された旨が報道されているのは、これに基づきます。

    販売業者の責任はどうなる?

     では、並行輸入行為が商標権侵害であった場合、本件の相談者のように並行輸入業者から仕入れて販売していた者(以下「販売業者」とします。)の責任はどうなるのでしょうか。

     相談者が述べているように、自ら輸入しているわけでなく業者から仕入れて販売しているのですから、「万が一、商品が本物ではなかったとしても、責任を問われるとすればその輸入業者ではないでしょうか」との疑問を抱くのは理解できます。ただ、結論としては、並行輸入業者が輸入した商品が、商標権者の商標権を侵害するものであれば、これを仕入れて販売していた販売業者も商標権侵害となってしまいます。相談者は、私はよくわからないから、輸入業者の方に文句を言ってくれとは言えないわけです。

     ただ通常の場合、商標権者から、(輸入等の事情を知らない)販売業者に対し、直接訴訟が提起されることは少なく、販売業者に対しては、差し止めおよび販売した商品の回収を求めるとともに、仕入先の開示請求、及び商標権侵害による損害額を算定するための資料、すなわち仕入数量・仕入価額、販売数量・販売価格等の提供を要求し、従わない場合には訴訟を提起するといった内容の警告書がまず送付されることが多いと思います。そして、前述のように、商標権者による差し止め請求権は、商標権侵害者の故意・過失を要件としていないので、商標権者から差し止め請求があった場合、商標権侵害商品を販売していたという事実さえあれば、差し止め請求は認められることとなります。また、商標権者による損害賠償請求権の要件である故意・過失も商標権侵害者の過失が推定されることとなっており、販売業者は過失の推定を覆さないと損害賠償責任を負うこととなってしまいます。つまり、法律の上では、販売業者であっても、並行輸入業者と同様の責任を負うことになるわけです。

    並行輸入品を取り扱う際の注意事項

     以上のように、並行輸入業者から「うちの製品は全て真正商品ですし、何か問題があった場合にもうちが全部責任をとりますから安心して下さい」といくら説明を受けたとしても、その商品の販売業者自身の責任が回避されることになりませんから、並行輸入品を取り扱う際には相応の注意を払う必要があります。

     もちろん、販売業者が、商標権者に対する損害を賠償しなければならないような事態になった場合には、並行輸入業者に対して、被った損害の賠償請求をすることは可能と考えられます。ただ、並行輸入業者に賠償資力がない場合などには、結局、販売業者が損害を被ることになりかねませんし、資力はあっても、並行輸入業者が自らの非を認めず賠償責任を履行しない場合、裁判などの手続きをしないと損害を補填(ほてん)できず費用倒れになるおそれもあります。

     そして、何より重要なのは、顧客から販売した商品の回収をしなければならないような事態に追い込まれることによって、顧客や市場での信用を失うことになることです。

     したがって、販売業者が、並行輸入品を販売しようとする際には、仕入れ先である並行輸入業者に対して、「真正商品の並行輸入」となる前述3要件を備えているかどうかを確認しておく、もしくはそういった点をきちんと認識しながら業務を行っているような、信頼のおける業者を相手にして取引をすることが望ましいことになります。また、万が一の場合にそなえて、正規代理店などとのトラブルにより損害を被った場合にその損失をきちんと補填してもらう旨の契約書を、並行輸入業者との間で取り交わしておくべきですし、損害を補填するだけの資力のある業者を選択すべきです。さらには、警告書などが送られてきた場合には、誠意をもって対応してくれ、販売業者に対するケアも十分にみてくれるような誠実な業者から仕入れるのが望ましいと思われます。

     いずれにしても、相談者の場合のように、いざ警告書が送付されてきた際には、勝手な判断をせず、まずは仕入れ先である並行輸入業者と十分に連絡をとり、早急に、適切な対応を取る必要があります。

     商標権侵害ではないと勝手な判断をして販売を継続したような場合、後日、訴訟で商標権侵害でないと判断されれば問題はありませんが、万が一、商標権侵害と判断されてしまえば、販売を継続していた分だけ、損害賠償の金額も大きくなるばかりか、販売した商品の回収に伴う費用負担の増加や信用力の低下といった大きな問題に発展してしまう可能性があります。

     以上のように、ニセモノと並行輸入品とは本来同列に扱うべきものではないのであって、正当な並行輸入は、業者間の競争を促し、商品を消費者に対してより廉価に提供できることから、むしろ推奨されるべきものです。ただ、その取り扱いに当たっては、上記のようなリスクもありますので、並行輸入品を取り扱う際には十分に注意して行うべきです。

     ※これまでの連載に大幅加筆した法律解説書「おとなのIT法律事件簿」が発刊されました。

    2015年02月11日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    蒲俊郎 (かば・としろう
    弁護士(第二東京弁護士会所属)
    城山タワー法律事務所代表
    http://www.shiroyama-tower.com/
    桐蔭法科大学院・教授
    http://toin.ac.jp/lawschool/teacher/kaba/
    桐蔭法科大学院・法科大学院長
    http://toin.ac.jp/lawschool/info-top/message2/
    日本法律家協会会員、日本私法学会会員、情報ネットワーク法学会会員他
     専門分野は、電子商取引全般、労働事件(使用者側)、会社商事関係全般等
     多数の企業の顧問弁護士として日々活動するほか、複数の上場するネット企業の社外監査役なども務める。他方、2010年4月、ロースクールのトップである法科大学院長に就任し、多忙な弁護士業務の傍ら、次の時代を担う法曹の育成にも注力している。
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