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大都会・東京で子育てに奮闘するアッコさんは、地方出身の元ヤンキー。愛する家族のため、生まれ変わろう――。娘が生まれた時、固く誓ったそうなのですが、消せない“過去”は今も彼女の心に重くのしかかります。「元ヤン子育て日記@TOKYO」の4回目のテーマは、消せない過去「タトゥー」について。
初めて会う人が私に抱く第一印象はだいたいこんな感じだろう。
「地味」「チビ」「ぽっちゃり」「いわゆるお母さん」
この前なんて、スーパーの入り口でイキった中学生に「おばさんこっち、見てんじゃねーよ」と絡まれた。「まだ26歳なんやけど!」と言い返そうとしたけど、なんか本当におばさんっぽくてやめた。
そんな私を夫は、「顔が豆に似ているね」「サトイモちゃん」なんて言う。
ウエスト1メートル超えのあんたに言われたかないよ!!……と怒りながら、自分の姿を鏡で確認。
……ほ、ほんとだ。
産後1年、自分の時間なんてなくて、肌もボロボロ。体形もまん丸で、
ただ、私には周りにはひた隠しにしている“見た目”上の秘密がある。
6年ほど前のことになる。当時20歳の私は水商売をしながら、クラブ通いや夜遊びに明け暮れていた。

「将来のことを考えなさい!」なんて親に言われても、将来のことなんて簡単に思い浮かばなかった。考えることすらも面倒で、「今が楽しければいい!」って本気で思っていた。
私は、20歳で初めてタトゥーを入れた。しかも、大好きなロックバンドのロゴをお
一度入れるとタトゥーは“癖”になる。最初は服で隠せるお腹だけと思っていたのに、まわりから驚かれるたびに、今度はなに入れてやろうか、という気持ちになった。ずっと容姿にコンプレックスを抱えていた私は、体に何かを刻むことで、生まれ変われるようにも思えた。
肩、お尻、太もも……。タトゥーは次々と増え、ついに人目にさらされる腕にもタトゥーを入れた。
「Love the life you live. Live the life you love.」
レゲエの神様こと、ボブ・マーリーの名言(らしい)。ネットで調べてノリで決めた。英語の勉強もしてこなかったから、この言葉の意味もなんのことかは分からなかったけど。
ただ、その腕に入れたタトゥーで、私は後に死ぬほど後悔することになる。
23歳の時、私は当時、付き合っていた夫からプロポーズされた。
「東京の大企業のサラリーマンからプロポーズ!? これで私は安泰じゃー!!!」と喜んだのも、
「長いわー。タトゥーはそれ一つ?」
初対面の私の右腕の袖をグイッとまくり上げ、顔をしかめた夫の母。背が高く、浅野温子さんみたいなサバサバした雰囲気の人で、ぎょろりと目を向けられるだけで、地元の怖い先輩を思い出し、心臓がググッと縮んだ。
(あぁ、もう今すぐにでも逃げだしたい……)
横目で夫に助けを求めると、黙って下を見ている。
ようやく顔を上げてなんか言ったと思ったら、小さい声で「焼酎なかったっけ?」。
お前あとでぶっ飛ばすからな。
夫の家族全員が鋭い目で私に注目する中、緊張に耐えきれなかった私はとっさに言った。
「はい。これだけです」
……やっちゃった。以前、「私はウソがつけない」と書いたけど、この時はどうしようもなかった。
夫と出会って、水商売も辞め、大きなアパレル会社に再就職した。夜の街と距離を置いたことで、実家との関係も良くなってきたし、新しい生き方ができるかもって、少しだけ自分の将来像を描けるような気がし始めていた頃。
なのに、軽いノリで入れたタトゥーに今の生活を壊されちゃうのは、絶対にイヤ!! その一心から出た言葉だった。
どれぐらい沈黙が続いただろう。しばらくして義母はつぶやいた。
「2人が本気なら仕方ない」
ホッとした一方、私は胸の底がずーんと重くなった。

大嫌いだったはずのウソをついてまでした結婚だ。こうなったら、義母に「あなたが結婚相手で良かった」と思ってもらうぐらい、何が何でも幸せな家庭を築くしかない。
ずっと笑顔でいなきゃ。子どもにもたくさん話しかけて、本も1日10冊は読み聞かせてあげる。午前午後にはお散歩。テレビもケータイも見せちゃだめ。ベビーフードは使わない。そして、もちろん右腕のタトゥーはシールで隠して完全防御。
育児で相談できる人もいないから、育児本のいいなりになるしかない。あれこれやっていると座る時間もないし、すごく気が張っているから、子どもが寝てくれると、疲れがどっと出た。
タトゥーのせいでこんな生活を送ることになるとは、夢にも思っていなかった。
中学生に絡まれた日の夜、帰宅した夫に「見てんじゃねーよって言われた!」って伝えたら、「怖いもん知らずやなぁ…」って逆に中学生を褒めていた。
相変わらずの調子でちょっとイラッとしたけど、ふと思った。ひょっとしたら、私、中学生にナメられるくらい、お母さんをやれているのかな、って。
「Love the life you live. Live the life you love.」
夫によると、「自分の人生を愛し、愛せる人生を生きろ」って意味らしい。
正直、タトゥーを入れたことはすごく後悔している。だけど、家族が寝静まった夜、お風呂であらわになったこの右腕を見ると、何だか明日も頑張ろうと思えるから不思議だ。
筆者(アッコさん)プロフィル
1993年生まれの26歳。中部地方出身。中学時代は「学校がつまらない」と授業をサボり、成績はオール1。その後、私立の専修学校に進学するも不真面目な素行に加え、成績もふるわず、ヤンキーへの道一直線。卒業後、一度は医療事務の仕事に就いたが、遊びたい気持ちを抑えられず退職。職を転々としていたところ、会社勤めをする夫と出会う。都内で夫と1歳の長女と3人暮らし。