絶対に失敗したくないクリパ そこで気づいた当たり前のこと
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もうすぐクリスマス。街の華やぎはいつもの年と違いますが、人の心のぬくもりはいつだって変わることがないはずです。地方出身の元ヤンママのアッコさん(27)もつい最近、心がほんのり熱くなる体験をしたそうで……。読売新聞オンラインの人気連載「元ヤン子育て日記@TOKYO」。今回のテーマは、決して忘れたくない気持ち、について。
高級タワマンでバカラのグラスを傾ける夫…なぜ
「バッ…バカラだ……!」
12月中旬。都内のタワーマンションの一室で、夫はビールが注がれたグラスの底に目をやりながら、高級ブランドのガラスの薄さと口当たりに驚いていた。
いつもは焼酎の水道水割りが定番の夫がなぜ、タワマンでバカラに注がれたビールを飲んでいるのか──。それにはちょっとした理由がある。
娘の頭の中はクリスマス一色 サンタさんにお願いするものは?

12月に入り、街はクリスマス一色。スーパーへ行けば、クリスマスツリーがいくつも飾られ、クリスマスソングが繰り返し流されている。
クリスマスといっても、私がお祝い気分になれたのは幼い頃だけ。中学でグレてからは、特別な感情を抱くこともなくなった。夜景を見ながらディナーを食べる、なんて、オシャレなことを言ってくる彼氏もいなかったしね。
だけど、娘が生まれてからは、私は急にこの季節が楽しみになった。
「ジングッベー ジングッベー しゅじゅあーうー」
ここ最近、娘の頭の中はクリスマスでいっぱい。「ジングルベル」を覚えて、一日中歌っている。
本屋に行けば、クリスマスの絵本。スーパーへ行けばブーツのお菓子の詰め合わせ。近くのショッピングモールに行けばイルミネーションから離れない。街も人もなにか楽しげだってことは分かるみたい。
サンタさんの存在も把握済み。「何お願いする?」って聞くと「どんぐり!!!」と即答だ。どんな人気オモチャよりも入手困難な季節外れのお願いに、私たち夫婦も大笑い。あまりに
う~ん。2歳になると、やっぱ違うなぁ。これだけクリスマスを理解してもらえると、去年よりももっと楽しい時間を一緒に過ごせるに違いない。
今年のクリスマスは頑張っちゃうぞ! そんなふうに思っていたある日、かつて公園でどんぐりを奪い合っていた娘のライバル「りっちゃん」のママから、こんなLINEが届いた。
「今度、ちょっとだけ、うちでクリスマスのお祝いしませんか? ぜひ旦那さんも一緒に」
りっちゃんママからパーティーのお誘い! さて手土産はどうしよう
りっちゃんは娘の大親友だ。公園で何度か顔を会わせるうちに仲良くなり、週に2回は一緒に遊んでいた。でも、りっちゃんママはキャリアウーマンで10月に職場に復帰。りっちゃんも保育園に通うようになって、ほとんど会えなくなった。
2人と顔を合わせるのは、以前、このコラムでも書いた、思い出作りに行ったディズニーランド以来。久しぶりに会えるのも楽しみだったし、何より家族ぐるみで仲良くできる人ができたってことに、私は天にも昇る気持ちだった。だって、友達も、仕事上の知り合いも、親類もいない、まさに完全アウェー状態の大都会・東京で、この人見知りの私が、である。何か大きな階段を一つ上れた気がした。
ただ、うれしさと同時に、あることに気付き、急に不安がやってきた。
「手土産はどんなものがいいかな?」
「クリスマスプレゼントは?」
ヤンキーだった私は、世間の「常識」というものを全く学んでこなかった。友達同士とはいえ、ホームパーティーなるものの作法なんてさっぱり見当がつかない(去年、別のママ友に誘われたときはパシリにされそうになったのでバックレたし……)。
これはピンチだ。りっちゃんファミリーとは、これからもずっと仲良くしたい。絶対に粗相がないようにしなければ。
というわけで、夫に相談してみると……。
「そんな準備して行ったら、逆に気を使わせるよ」「何もいらないよ」と気のない返事。
えーっ!? 手ぶら?
想定外の答えに、頭の中が真っ白になった私。一瞬、そういうものかもと思ったが、いやいや、やっぱりどー考えても、手ぶらなんて、あり得ない。てか、こっちは真剣に相談してんだけど!
結局、我が家は、夫の意見と私の意見の間をとり、手作りのミートソースと、子ども向けの手作りのクリスマスカードを持っていくことにした。
娘がくれた最高のクリスマスプレゼント それは……

パーティー当日。
近所で評判のタワマンにあるお宅に着くと、サンタ姿のりっちゃんのお出迎え。
中に入ると、室内は完全にクリスマス仕様になっていて、テーブルにはすでに料理が何品も並べてあり、お酒まである。おまけに、リビングだけで、私たちの家(1LDK)のゆうに2倍はあって、3密対策もばっちりだ。
「メリークリスマース! 久しぶり~~!」といつも通り明るく優しい笑顔のりっちゃんママ。
ガーン……。こ、ここまで準備してくれていたとは…。
ちゃんとした手土産を持ってくればよかった。
お菓子とか、フルーツとか、お酒とか……。
考えればすぐに思い浮かびそうだ。あぁ、夫の意見を聞いた私のバカ……。
気を取り直して、手作りカードをりっちゃんに渡す。
「ありがとう!」という大きな声と笑顔に、少しだけ心が救われた。
娘はというと……りっちゃんのオモチャを次から次へと物色し、気になるものを見つけては、遊んでいる。食事が始まるとテーブルに並んだご
「やっぱり男なら、いいグラスのひとつぐらい持つべきですかねぇ?」。夫はバカラのグラスを傾けながら、りっちゃんパパと調子よく話している。あぁ、そうだ。思い出した。コイツの取りえは常識や気遣いとかではなく、どこか憎めない厚かましさなのだった。
そして、りっちゃんママと私。「仕事大変ですか~」「やっぱり大変だね~」って近況について話したり、「これおいしい!」「あっ、作り方はね!」なんて家庭の味のレシピを教えてもらったり。しばらく会っていなかったけど、以前と同じ、何げない話を楽しんだ。
パーティーといっても、お互いに距離を取って、
きっとそれは、娘のおかげだ。
まわりから見たら、ど~ってことない経験なのかもしれないけど、やさぐれた過去を持つ私からすれば、ステキなママ友との出会いも家族ぐるみのお付き合いも、「手土産ちょっと失敗したかな問題」も、娘がいなければ決して得ることはできなかった。
彼女はこれからもいろんな場面で、見たこともない世界や景色を私に体験させてくれるに違いない。感謝しなきゃダメだな、って改めて思う。
帰宅し、幸せの余韻に浸る私に、ほろ酔い気分の夫がこんなことを言ってきた。
「みーちゃんと過ごすクリスマスはあと何回あるんだろうね」
東京へ来て3度目のクリスマスを迎えた。
大変な世の中だからこそ、強く願う。
来年も笑顔と感謝の気持ちに満ちあふれた一年になりますように。
筆者(アッコさん)プロフィル
1993年生まれの27歳。中部地方出身。中学時代は「学校がつまらない」と授業をサボり、成績はオール1。その後、私立の専修学校に進学するも不真面目な素行に加え、成績もふるわず、ヤンキーへの道一直線。卒業後、一度は医療事務の仕事に就いたが、遊びたい気持ちを抑えられず退職。職を転々としていたところ、会社勤めをする夫と出会う。都内で夫と2歳の長女と3人暮らし。