完了しました
どんなに時間と愛情を注いでも、親の思い通りにいかないのが、子育てというもの。東京で子育てに奮闘する元ヤンママのアッコさん(27)も最近、一人娘の成長ぶりに頼もしさと不安が同居する複雑な気持ちになることがあるそうで……。読売新聞オンラインの人気連載「元ヤン子育て日記@TOKYO」。今回は、親が知らない子どもの顔について。
「親に金入れさせる」…頭から離れない女の子たちの会話
「このポチ袋をさぁー、母親に渡して金入れさせるの良くね??」
「いいじゃーん」
昨年末、雑貨店のポチ袋コーナーの前で、高校生くらいの女の子たちがこんな会話をしているのを耳にした。別にグレてる感じでもなく、ごく普通の青春真っ盛りの女の子たち。
あのぐらいの時って、友達の前では親を小バカにしたような態度をとることが、カッコいいみたいな、そんなノリがあったような気がする。
なんだか、懐かしくて、
(いつか、私もあんなふうにみーちゃんに扱われるのかなぁ……)

遠い目で女の子たちを見つめていた私に、娘が大きな声を上げながら走り寄ってきた。
「ママー! ちきゅうあったー!!!」
ん? 地球?
娘に手を引かれてついて行くと、そこには地球儀があった。
「本当だー! 地球あった!!」。親子2人で大はしゃぎ。
教えた覚えのない「ちきゅう」という言葉。娘は毎日、急成長している。
公園で「鬼滅ごっこ」、急に泣き出した友達を前に
カエルの子は、カエル。
なんて言葉があるけど、学校にもろくに通わず、ヤンキーの道一直線を歩んだ私からすれば、我が家だけは何とか「トンビがタカを生む」であってほしいと願っている。
実際、うちの子は本当に「タカ」なんじゃないか、と驚かされることがないこともない。
例えば、私たちが毎日、午後4時に遊びに行く公園でのこと。
この公園には夕方になると保育園帰りの4歳児たちがどこからともなくたくさん集まってくる。2歳の娘と私は最近、その「チーム4歳」に気に入られて、一緒に遊ぶようになった。
みんなのお気に入りは「
名前の通り、大人気の「鬼滅の
イキのいい鬼役として……。

「じゃあ、みーちゃんママが鬼ね!」
グループのメンバーが何人か集まり、その日も私は声をかけられた。
さんざん、鬼滅ごっこをしておきながら、私はまだマンガもアニメも見たことがない。
「どんな鬼になればいい?」
そう聞くと「うーんとね、糸を出す鬼!」というリクエストだ。
糸を出す……? とりあえず、スパイダーマンのようなポーズで「シャー!」と言ってみる。すると子どもたちは「キャー!」とうれしそうな声を上げながら、走り去っていく。
追いかけるだけで、めちゃくちゃ楽しそう。
鬼滅ごっこなんて、なんのこっちゃ分からない娘も、ただケタケタ笑いながらママの後ろを走っている。
でも、それだけでは済まないのが4歳児。何かのきっかけで、楽しい時間は突然、終わりを迎える。
「もう、やめて! 怖いよ~」
さっきまで上機嫌だったはずの女の子が急に泣き出して、手もつけられない状況になった。
やばっ、ちょっと本気で追いかけ回しすぎたか。
私はすぐに“人間”に戻る。
「ごめんね? みーちゃんママ楽しくなっちゃって、追いかけちゃった。本当にごめん」
「いやだ!」
必死に謝ったけど、なかなか機嫌は直らない。おまけに女の子のお母さんが「お姉さんなんだから泣かないの!」なんて叱りだして、ますます状況は悪化するばかり。うーん……困った。
途方にくれていると、娘が私の背後から現れ、女の子の目の前に立った。
「イテテなのー?」
そう聞きながら、2歳上のお姉さんの頭をなでた娘。次の瞬間――。
「みーちゃんなんて嫌い!」
ご機嫌斜めのお姉さんは娘をバーンと両手で突き飛ばした。
「なにしてんの!!!」
女の子のお母さんは泣き叫ぶ女の子をさらに叱りつけ、あぁ、もう最悪の展開……。

と、思いながら、ふと、娘の方を見ると、なんと唇をかみしめ、必死に泣くのをこらえている。涙が引っ込んだ後も、私の手をギュッと握って、お姉さんのことを心配そうに見つめていた。
しばらくして、気持ちが落ち着いたのか、お姉さんはママと一緒に「みーちゃんごめんね」と謝ってきた。娘はすぐに「いいよ~」と言って、一緒に滑り台に駆けていった。
どこにでもある子どものケンカだし、親バカと言われるかもしれないけど、優しくて強い娘の一面を見た気がして誇らしく思った。
そう言えば、私や、ポチ袋コーナーの女の子たちは、どんな子どもだったのだろう。娘にはこのまま真っすぐ育ってほしいのだけど……。
いきなり不機嫌、いつも「ばあば!じいじ!」だったのに
「みーちゃん! ばあばに電話するけど、みーちゃんは?」
我が家では定期的に私や夫の両親にテレビ電話をしている。夫が忙しく、めったに帰省することができないので、新型コロナの感染が拡大する前からの習慣になっている。
これまではいつも「ばあば!じいじ!」と大はしゃぎの娘だったのに、先日は少し違った。

「みーちゃん、いそがしーの!」
そう言って、かじりつくように「しまじろう」のDVDを見ている。
「え? みーちゃん、テレビ見てるだけじゃん!ばあばとお話しよーよ!」
そう言うと、「う~ん」とグズグズしながら、めんどくさそうに、ばあばと話し始めた。
うっ、またまた、見たことのない一面。
――「このポチ袋をさぁー、母親に渡して金入れさせるの良くね??」「いいじゃーん」――
スマホの画面越しに気のない返事を繰り返す娘の後ろ姿に、あの女の子たちの姿が重なる。
娘はこれからどんなふうに成長していくのか。楽しみではあるけれど、きっと大きくなればなるほど、私の知らない“彼女の一面”もどんどん増えていくのだろう。
もう少しかわいいみーちゃんと一緒に過ごせるといいのに、とも思う、今日この頃だ。
筆者(アッコさん)プロフィル
1993年生まれの27歳。中部地方出身。中学時代は「学校がつまらない」と授業をサボり、成績はオール1。その後、私立の専修学校に進学するも不真面目な素行に加え、成績もふるわず、ヤンキーへの道一直線。卒業後、一度は医療事務の仕事に就いたが、遊びたい気持ちを抑えられず退職。職を転々としていたところ、会社勤めをする夫と出会う。都内で夫と2歳の長女と3人暮らし。