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東京で子育てに奮闘する元ヤンママ・アッコさん(27)にとって、古里で暮らす父親がとにかく怖い存在だったのだそう。ただ、「絶対に、父親みたいになりたくない」と誓ってきた割に、アッコさんは最近、あることに気づいて
夕飯を食べるのも父が座ってから

小さい頃、父親のことが怖くて仕方なかった。
いま57歳の父は、昔
そんな父の姿を見て、私は「絶対、こんな親にはなりたくない」と思っていた。優しくて、余裕があって、声を荒らげることなんてない、エレガント(!)な親。それが理想の父だと……。
公園を駆け回り帰ろうとしない娘 「いい加減にしなさい!!!」
「ハ~ギュ~…変身っ!!! えいっ!! やーっ!!」
人影もまばらな、お昼時の近所の公園。プリキュアに変身する娘の声が響く。
その様子を遠くからぼーっと眺めていた私は、腕時計にちらりと目をやり、「はぁ~」と深いため息をついた。
もう1時間以上、娘はプリキュアに変身しては公園を駆け回っている。最初は一緒に遊んでいた友達もお昼ご飯で1人抜け、2人抜け……。いつの間にか、公園には私たち2人だけになっていた。

最初のうちは、「帰るよ~」「やーだーよ」なんてやり取りも、まだほほ笑ましく感じる。それが、5回も続くと、お互いちょっとずつイライラがたまってきて、最後には……。
「帰るって言ってるでしょ!」
娘をむんずと抱えて、自転車のチャイルドシートに無理やり乗せる。泣きじゃくり、必死に足をバタバタさせて抵抗する“プリキュア”だが、大抵の場合、私の顔や体に蹴りが入った段階で公園に怒号が響き、その戦いは終わる。
「もう、いい加減にしなさい!!!」
チャイルドシートで、しょんぼりしている娘。こうして遊びを強制終了するたびに、「楽しかったのだろうに、かわいそうなことをしちゃったな」と反省する。そう言えば、私も小さい頃、同じように父親から怒られていた。
「人を殺せと言われたら、言いなりになって殺すのか!?」
小学生の頃、私は学校から帰ると、「ただいま」のあいさつもそこそこに玄関にランドセルを放り投げ、近所の公園に走っていった。当時の門限は、ほかの子より早い午後5時。思い切り遊びたいから、1分1秒も無駄にしたくなかった。

午後4時50分過ぎが、一番難しい時間帯だ。まだまだ遊びたいという気持ちもあったし、途中で帰って「つまらないヤツ」認定されるのもイヤで、ついつい鬼ごっことかに参加してしまうのだけど、頭の中に激怒する父親の顔が浮かび、楽しむどころではなくなってくる。
結局、門限のプレッシャーに耐えきれず、最後には申し訳なさげに「もう時間だから帰るね」と切り出すのだけど、友達からは「時間なんて守らなくたって、怒られないよ!」と冷やかされた。
「ただいま」とつぶやきながら、玄関を開けるとたいてい5分ほど門限を過ぎている。居間の様子をうかがうと、怒り心頭に発してソファに座る父が目に入るのだ。
「帰るって言ったら嫌われるかもしれないもん!」「本当は、時間通りに帰ってきたかったんだもん……」
怒りを静めたくて言い訳を並べ、父の
「言い訳しとるんじゃねぇ!」
そう一喝されると、心臓をギューッとつかまれるような気分になった。
「友達に言いたいことをハッキリ言えないようで、どうするんだ? 人を殺せと言われたら、お前は友達の言いなりになって人を殺すのか!?」
いやいやいや……。門限にちょっと遅れたぐらいで、なんて理不尽な。あなたには子どもの気持ちが分からんのですよ。私が友達に嫌われたって、いじめられたって、へっちゃらなんでしょ。
心の中でそう思いながら、「ごめんなさい」。私は歯を食いしばり、言葉を絞り出していた。
娘に声を荒らげる度に落ち込んでしまうのだけど
そんな記憶があるものだから、母親になった今、娘に声を荒らげる度に「あぁ、私、お父さんみたいになっているかも!」と落ち込んでしまう。
ただ、先日、そんな悩みを夫に話すと、意外な反応が返ってきた。
「えっ、お父さん、よくね? 俺は好きだけどなぁ~。不器用で、怒りっぽいけど、一生懸命でいいじゃん。アッコは顔も性格もお父さんそっくりだよ」
「私がお父さんにそっくり? ってか、一生懸命?」
厳しかった父のことを、そんなふうに見たことはなかった。
ただ、言われてみれば、仕事で家を空けることが多い夫と違って、父は夕方に仕事を終えると、いつも真っすぐ家に帰ってきた。外に遊びに行くこともなくて、晩ご飯は毎日一緒に食べたし、学校であったことをよく聞いてくれた。縄跳びやでんぐり返しの練習もできるようになるまで連日付き合ってくれたこともあったし、友達とケンカして学校に行きたくない、と駄々をこねたときは、仕事場に連れて行ってくれたこともあったっけ。

う~ん。事実を客観的に並べてみると、意外と子煩悩な頑固おやじ……だったのかもしれない。夫が言うように、不器用でうまく子どもを叱れないタイプの親。いまの私と同じように、
「親の心子知らず」とはよく言うものの、そう考えると、ちょっぴり切ない。
怖い父を避けていた小学生の娘、何にでも反発して、ヤンキーの道一直線に歩んだ青春時代の娘を、彼はどんな思いで見つめていたのだろう。
いつかうちの娘も、怒ってばかりいる私に「お母さんみたいにはならない!」なんて反発することになるのだろう。娘には私と違って「立派な人」になってほしいから、それぐらいがちょうど良いのかもしれないけど、「あなたも親になれば、分かるわ」ぐらいしか言えないのって、改めて、親ってなかなかに大変な立場だと思う。
筆者(アッコさん)プロフィル
1993年生まれの27歳。中学時代は「学校がつまらない」と授業をサボり、成績はオール1。その後、私立の専修学校に進学するも不真面目な素行に加え、成績もふるわず、ヤンキーへの道一直線。卒業後、一度は医療事務の仕事に就いたが、遊びたい気持ちを抑えられず退職。職を転々としていたところ、会社勤めをする夫と出会う。都内で夫と2歳の長女と3人暮らし。